春の時期になると迎えることが多くなるメス犬の発情期。
しかし、それと同時に悩ましくなるのが、避妊・去勢手術の判断ではないでしょうか?飼い主さんの中には、「わざわざ手術なんて必要ない」と思う人が居るほど、この題材はデリケートな問題ですよね。
けれど避妊・去勢手術の判断に関しては、この時期だからこそ今一度検討してほしい理由があります。
今回は、犬の発情期前に改めて考えたい、避妊・去勢手術の必要性、犬種別の適正時期についてご紹介します。
毎年訪れる犬にとっての発情期とは?

避妊・去勢手術を検討する前に、まず考えておきたいのが犬の発情期そのものです。
犬は毎年大体決まった季節に発情期を迎えることが多くなりますが、一番初めの発情期(初回発情)を迎えることは以下のような重要な役割を果たしたことを意味しています。
▼【犬の初回発情を迎えることで果たせる役割】
・愛犬の体が赤ちゃんを産める(性成熟)状態
・生殖機能が発達しきって交尾の受け入れが整った状態
一般的に発情期を迎えるためには、その前に訪れる性成熟(生殖能力の発達段階)を経ることで始まりますが、心身に関する成熟については、性成熟よりも遅く発達することが多いため、仮に繁殖を考えた場合でも、初回による発情の交配は推奨されず、2度目の発情期を迎えた時に、初めて交配が行われることが多いです。
ただ、この発情期のサイクル中に繁殖を検討しない場合には、避妊・去勢手術を出来る限り検討した方が良いかもしれません。
というのもメス犬が迎える発情期というのは、外見上では人の生理のように見えるかもしれませんが、その仕組み自体は、全く異なるものだからです。
一般的に人の生理の場合、妊娠しなかった時に充血した子宮内膜が剝がれることで、出血と痛みを伴う現象を指しますが、犬の発情期(別名ヒート)の場合は、発情前期で起こるエストロゲン(発情ホルモン)が作用することによって、膣粘膜や外陰部の充血、腫大、そして出血を伴うようになるため、厳密に言うとこの部分が人の生理のように見える部分となります。
しかし、このサイクルは繁殖させずに繰り返しおこなっていくと、迎える度にストレスを抱えたり、後々疾患の発症リスクの増加に繋がってしまったりする場合があるのです。
避妊・去勢手術をしないことで起こる主なリスク

では、その後々起こり得るかもしれない疾患リスクとは、具体的にどういったものなのでしょうか?
メス犬、オス犬に分けてそれぞれ確認してみましょう。
メス犬が避妊手術をしないことで起こる疾患リスク
メス犬が避妊手術をしないことで起こってしまう疾患リスクには、以下のような疾患項目が挙げられます。
・乳腺腫瘍
・子宮蓄膿症
・卵巣腫瘍
特に乳腺腫瘍や子宮蓄膿症に関しては手術をしないことによる発症リスクは、年齢を重ねるごとに増えていくと言われています。
乳腺腫瘍では未避妊の場合、生涯発生率は76%以上に及ぶとされており、子宮蓄膿症では、未避妊の場合、生涯発生率は60%~80%以上に及ぶと言われています。
オス犬が去勢手術をしないことで起こる疾患リスク
では逆に、オス犬が去勢手術をしないことで起こってしまう疾患リスクをご紹介します。
未去勢のオス犬の場合では、去勢手術をしないことで以下のような疾患項目のリスクを高めてしまう危険性があります。
・肛門周囲腺腫
・会陰ヘルニア
・前立腺肥大
・精巣上体腫瘍(精巣腫瘍)
肛門周囲腺腫や精巣上体腫瘍などは、男性ホルモンの影響を強く受ける部分ですが、去勢手術を行うことで予防することが可能です。
しかし、去勢手術を行わずに、未去勢のままでいた場合には、5歳以上の犬の約60%もの犬が、前立腺肥大を発症する危険性があると言われています。
避妊・去勢手術を検討する必要性と注意点

だからこそ、こういうリスクを回避するための避妊・去勢手術の検討が必要なのです。
ただ、この検討をする必要性には、合わせて注意しておきたい点も存在します。
それは、避妊・去勢手術をする際の適正時期と犬種についてです。
愛犬に対して避妊・去勢手術を行なうことは、ストレスの軽減や疾患リスクの低減のために、とても必要性の高い手術ではありますが、この手術時期を誤ってしまった場合、それは逆に心身に必要な発育段階を逸してしまう危険性があります。
避妊・去勢手術は、一般的にどの犬種サイズにおいても、性成熟以降の手術が推奨されています。
具体的には、小型犬の場合で性成熟が達する月例は、6か月~12か月とされており、大型犬の場合で性成熟が達する月例は、12か月~24か月程度だと言われています。
しかし、人でも成長する速度が違うように、犬の性成熟も発達速度は個体によって差があるため、一概にこの月例を迎えているから性成熟出来ていると考えないよう注意が必要です。
また、犬の種類自体でも、避妊・去勢手術の適正時期が異なることに注意しておきたいところです。

犬が避妊・去勢手術を行う際の分類については、基本的に日本では小型犬・中型犬・大型犬の体格の違いと月齢の違いによって判断すればそこまで問題となることはないかもしれません。
けれど、海外が発表した避妊・去勢手術の研究報告の中には、特定の犬種で推奨時期が異なることが明らかとなっています。
そのため、次章では犬種別で明らかにされた避妊・去勢手術の適正時期について、触れていきます。中には避妊・去勢手術自体が非推奨だとされている犬種も報告されているようなので、ご自身の愛犬が該当しないか、是非とも確認してみてください。
犬種別の避妊・去勢手術推奨時期って?

そもそも犬の避妊・去勢手術の適正時期は、性成熟が済んだ個体で、尚且つ早くて初回発情が来る前、もしくは初回発情が来た後、または2度目の発情期が来た後が、上記で述べた疾患リスクの低減に最も効果的な時期だと言われてきました。
けれど、2019年に全米動物病院協会ガイドラインにおいて示された推奨される手術時期は、主に20kg以上の中・大型犬のオス犬では、9か月~15か月齢での実施が適正だとされるようになり、メスでは5か月~15カ月での実施が適正だとされるようになったというのです。
ただしこの報告は、超小型犬や小型犬を多く迎える日本からすると、ややそぐわない研究結果となるため、小型犬を迎えている飼い主さんにとっては、参考にはならないかもしれません。
しかし、20kg以上の中・大型犬に関しては、以下のような犬種別での手術の適正時期データが取られています。
|
オス |
メス |
手術非推奨 |
ドーベルマン |
ゴールデン・レトリバー |
6~11か月 |
アメリカン・コッカー・スパニエル、コーギー、ラブラドール・レトリバー |
オーストラリアンキャタルドッグ、ロットワイラー、セントバーナード |
11~23か月 |
ビーグル、ボーダーコリー、ボストンテリア、ゴールデン・レトリバー、ミニチュアプードル、ロットワイラー、20~40kgの雑種 |
ボーダーコリー、コリー、イングリッシュスプリンガースパニエル、ラブラドール・レトリバー、20kg以上の雑種⽝ |
23カ月齢以降 |
バーニーズマウンテンドッグ、ボクサー、ジャーマンシェパード、アイリッシュウルフハウンド、スタンダードプードル、40kg以上の雑種 |
ボクサー、コッカースパニエル、ドーベルマン、ジャーマンシェパード、シェルティー、シーズー |
適正時期 |
オーストラリアンキャタルドッグ、オーストラリアンシェパード、ブルドッグ、キャバリアキングチャールスパニエル、チャウチャウ、コリー、ダックスフント、イングリッシュスプリンガースパニエル、グレートデーン、ジャックラッセルテリア、マルチーズ、ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン、トイプードル、パグ、セントバーナード、シェルティー、シーズー、ウェスティー、ヨーキー、20kg未満の雑種 |
オーストラリアンシェパード、ビーグル、バーニーズマウンテンドッグ、ボストンテリア、ブルドッグ、キャバリアキングチャールズスパニエル、チャウチャウ、コーギー、ダックスフント、グレートデーン、アイリッシュウルフハウンド、ジャックラッセルテリア、マルチーズ、ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン、トイプードル、ミニチュアプードル、スタンダードプードル、パグ、ウェスティー、ヨーキー、20kg未満の雑種 |
(※上記のデータは海外の論文を基に筆者が再構成したデータ表になります。)
驚くことに、オスのドーベルマンとメスのゴールデン・レトリバーにおいては、手術すること自体が非推奨とされており、その理由というのが、手術をすることによって特定の健康リスクを増加させるためだとされています。
その具体的な内容は、オスのドーベルマンの場合には、手術をすることによる関節疾患や腫瘍性疾患のリスク増加に繋がる可能性が示唆され、メスのゴールデン・レトリバーの場合には、特に腫瘍性疾患のリスク増加に繋がる可能性が示唆されたとのことでした。
とはいえ、このデータに関する内容は、あくまでも避妊・去勢手術をする際の目安時期であるため、最終的な判断については、かかりつけの獣医さんの指示の元、飼い主さんご自身の判断で手術の有無を決定してあげてください。
まとめ

犬の避妊・去勢手術に関する内容は、現在でも議論が賛否分かれるものだと感じます。
しかし、筆者はこれまで初代柴犬と2代目シェルティーの避妊手術を、子宮蓄膿症や乳腺腫瘍を患うまで行わなかったことで、愛犬にツライ思いをさせてしまった経験があります。
そのため、少なくとも発情期を迎える季節だけでも、是非とも再度検討してみてはいかがでしょうか。
<参考サイト>
⽝の「不妊⼿術・去勢⼿術、いつやるのが正しいか問題」を考える|⿃取⼤学農学部附属動物医療センター 特命助教 天⽻ 隆男
>https://vth-tottori-u.jp/wp-content/uploads/2023/09/topics-vol.136.pdf
Assisting Decision-Making on Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs: Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence
>https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full#B4

また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。

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