「犬のひげは、猫のひげのように神経と繋がっていないから切っても問題はない」という言葉を耳にしたことがある飼い主さんは多いと思います。
トリミングを必要とする犬種の場合、顔周りのカットと一緒にひげのカットをお願いする飼い主さんも少なくないでしょう。
けれど犬のひげにも猫ほどでないにせよ、それなりの役割があります。
今回は、犬のひげの役割と切らない方が良い理由、切る際の注意点などをご紹介します。
「犬のひげは切っても問題ない」は本当?
猫の場合、口周りに生えているひげは全体的に神経と繋がっているため、決して切ってはいけないと言われます。
しかし犬のひげの場合、ひげに神経や血管が通っているのは根本付近だけなので、それ以外を切る分なら「ひげを切っても問題はない」という考えが通説となっているかもしれません。
けれど犬のひげが多く生えている鼻先・口周りには、“触られる”という感覚を感知する皮膚受容器の一つのメルケル細胞が豊富で、神経終末と密接に関連した部分でもあるということが分かっています。
口元などの敏感な部分を触られることに抵抗がなく、また、心身や年齢に対しても特に何も問題がないというような愛犬の場合には、この「犬のひげは切っても問題ない」通説は、通説通り通用するため、ひげを切っても問題はありません。
ただ、通説はあくまでも通説にすぎません。
ひげとは直接関係がない受容器ではあるものの、この受容体によって、ひげには敏感に機能する感覚が備わっているということも分かっているため、一概に「犬のひげは切っても問題ない」という考えを鵜呑みにするのはやめた方が良いでしょう。
犬にも重要なひげの役割って?
では、そのような受容器と間接的にも密接に関係するひげの主な役割とはどんなものなのでしょうか?
役割を知らずして、ただ単に外貌的な好みでひげをカットして後々後悔してしまうことがないように、犬のひげの主な役割について3つほど見ていきましょう。
▼【犬のひげの主な役割】
①感覚器
②感情表現
③平衡感覚
感覚器
犬のひげは猫のひげに比べると、確かに感覚器としての機能は劣ります。
しかしそれでも、犬の触覚情報を記憶する脳領域のおよそ40%は顔周りに集中していて、様々な情報をそのひげから読み取っていると言われています。
感情表現
犬のひげは確かに猫と違って根元にしか神経や血管は通っていません。けれど、犬のひげは筋肉によって自由自在に動かせるため、感情表現を示す役割を果たしてくれます。
犬は基本的に他の動物よりも表情が豊かで、怒り・恐れ・攻撃・痛み・服従などの自らを守る表現を顔からだけでなく、ひげからも表現するため、犬とのコミュニケーションに役立ちます。
平衡感覚
犬のひげは、体の傾きや動きなどの平衡感覚をサポートする事にも役立ちます。
例えば犬は激しい運動などをする際、多くはしっぽでそのバランスを取っていると思われがちですが、ひげでも同じく気流の流れなどを察知して平衡感覚をサポートしているため、特に活発な犬の場合には欠かせない感覚器官と言えるでしょう。
犬のひげを切らない方が良い理由
心身や年齢など、気になる点がなければ切っても問題がさほどない犬のひげ。
ですが、それでも出来ることなら切らない方が良い理由には、以下のような事柄が挙げられます。
▼【犬のひげを切らない方が良い主な理由】
・ストレスが掛かってしまう
・障害物にぶつかりやすくなる
・感情表現を誤りやすくなる
ストレスが掛かってしまう
犬のひげが多く生えている鼻・口周りには、メルケル細胞が豊富だということを前述で述べましたが、この事実を無視して外貌だけを重視したひげカットをしてしまうと、愛犬にストレスを掛けさせてしまう恐れがあります。
愛犬の性格や鼻・口周りを触られる際の愛犬の様子はどうでしょうか?警戒・緊張・興奮など、口周りを触られそうになった瞬間にわずかにひげが前に傾くようなら、その反応は触られることに抵抗を示している証拠です。
いくら長毛犬種でトリミングが頻繁に必要な犬種であったとしても、その子の性格次第ではひげカット自体が逆効果になってしまっているかもしれません。もしもこれまで顔周りカットをお願いして、ひげも一緒にカットしてもらっていたという場合には、次にトリミングをしてもらう前に、今一度愛犬の表情をじっくり確認して見ると良いでしょう。
障害物にぶつかりやすくなる
犬のひげは平衡感覚機能にも役立っているため、そのひげをカットしてしまうことは、かえって障害物などにぶつかりやすくなる原因となってしまう可能性があります。
中でも年齢が高齢で、嗅覚や視覚といった触覚以外の五感が衰えてしまっている愛犬の場合、ひげを切ってしまうことによって、まともな平衡感覚を察知できず、物にぶつかったり、動きがより鈍くなったりしてしまいます。
特に薄暗い空間内ではそれが顕著に表れるために、愛犬の表情が不安そうに見える場合があります。
シニア犬にとってのひげというのは、視覚障がい者の人で言うところの白杖のような役割をしています。そのため、年齢が7歳以降の愛犬の場合には決して切らないよう注意しましょう。
感情表現を誤りやすくなる
犬の感情表現は上記でも触れたように、表情が豊かなため、怒り・恐れ・攻撃・痛み・服従などといった防衛反応に関する表情は人にとっても分かりやすく表現されているかもしれませんが、人が良く“犬の笑顔”だと捉える表情に関しては、犬のひげをカットしてしまうことによって、その感情を見誤ってしまう可能性が生じます。
▽『笑顔に見えて実は不安や緊張を示す犬のボディランゲージ』
引用元:犬語図鑑 犬のボディランゲージを学んでもっと愛犬と仲良くなろう
上記の画像は、犬のボディランゲージを表した一つの表現ですが、どちらもぱっと見は笑っているようでも、実はこの表情はどちらも不安や自信の無さなどを表した感情の一つです。
犬が何かしら感情を示した際のひげの動きは、ごく微細、または一瞬のため、仮にひげがあったところで読み取るのは難しいかもしれません。
しかし、それでもやはり短くカットしてしまったひげと、そうでないひげで見比べた際には、何かしら違った印象を持つことが可能なため、感情の見誤りを避けたい場合には、ひげのカットは避けた方が良いでしょう。
それでも犬のひげを切る際の注意点
ただ、そうは言っても「衛生面からも美容面からもやっぱりスッキリさせておきたい」という飼い主さんの場合、以下の2点について注意しながら、愛犬のひげカットを検討してあげてください。
▼【犬のひげを切る時の注意点2つ】
・ひげを抜くような方法はしない
・シニア犬に差し掛かったら切るのを止める
犬のひげは、根本以外なら神経や血管が通っていないため、切っても痛みという痛みは感じません。
しかしひげの根本は、しっかりと神経や血管が通っているため、抜くような方法で除去してはいけません。また、カットであっても、根元に近い切り方はとても危険なので、先端のみをカットしてもらいましょう。
さらに、シニア犬に差し掛かった愛犬の場合は、それまで問題なかった平衡感覚であったとしても、それ以降はひげのカットをするのは止めましょう。
シニア犬に差し掛かった愛犬のひげのカットは、基本的には医療上の理由がなければ自然のまま残しておくのが推奨されます。
そもそも犬は、歳を取れば自然と人同様何度もひげの生え変わりを経て、いずれは白い毛が増えて、ひげも白く細くなっていくものです。
自然と抜け落ちたひげは、それまで何度も抜けては生えを繰り返してきた黒い元気なひげのはず。愛犬が元気に成長している証でもあれば、思い出の一つでもあるため、自然と抜け落ちたひげなどは、猫の飼い主さんが良くやるひげケースなどに仕舞って、大事に保管してあげてください。
まとめ
いかがでしたか?
犬のひげは、猫ほど重要ではないとは言われつつも、何気にいろんな場面で役立つ存在だったかと思います。
犬のひげカットについては、最終的には飼い主さんご自身の判断や裁量によって見た目や衛生面に直結してくるものかと思いますが、少なくとも、愛犬のメンタル面や年齢、そのカットが本当に必要かどうかについては、トリミングを施す前に今一度じっくり検討した上で、愛犬の負担にならない程度のトリミングをしてあげてくださいね。
<参考書籍>
楽しい解剖学 ぼくとチョビの体のちがい 第2版
犬語図鑑 犬のボディランゲージを学んでもっと愛犬と仲良くなろう
<参考サイト>
Why Do Dogs Have Whiskers?|犬にはなぜひげがあるの?
>https://www.psychologytoday.com/intl/blog/canine-corner/201109/why-do-dogs-have-whiskers
Morphologic and immunohistochemical features of Merkel cells in the dog|犬のメルケル細胞の形態学的および免疫組織化学的特徴
>https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0034528814002951
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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