春から夏にかけては、気候も暖かくなり、明るい時間にお散歩に出かける飼い主さんは多いかと思います。
また、この時期には子供たちも外で遊ぶことが多くなることでしょう。
しかし、この時期には犬による子供への咬傷事故が増える調査結果が、近年のアメリカでの報告で明らかとなり、注意が必要です。
今回は、米国調査で分かった犬の咬傷事故による結果や子供が犬に咬まれないための予防策・対策をご紹介します。
<目次>
10年分のデータが示した犬の子供への咬傷事故状況
犬を迎えると、多かれ少なかれ、多くの飼い主さんが犬の“咬む”という行為を経験したことがあるでしょう。
しかし、その犬の“咬む”行為は、春から夏にかけて子供への咬傷事故の増加に繋がるというのです。それは一体どういうことなのでしょうか?
今回、その研究結果を明らかにしたのは、アメリカのデラウェア州・ウィルミルトンに拠点を置くヌムール・チルドレンズ・ヘルス小児病院の研究者らです。
研究者らの調査によると、2010年~2020年までに収集した1億5,200万人中、4,600万人の子供の患者データ0.08%(36,800人)は、犬に咬まれて救急外来を受診した結果が得られたというのです。(『米国国家電子傷害監視システム(National Electronic Injury Surveillance System)調べ。』)
そして、これらデータを分析していく中で、それが、春から夏にかけて、特に犬による子供への咬傷事故が増加した、と報告しています。
子供の場合、逃げる際にはどうしても犬から見て背を向けて走ってしまいがちです。
しかし、それはかえって犬の狩猟本能を掻き立てて、小学生やティーンだと腕や足へのケガに繋がり、6歳未満の幼児では顔や頭部といった重体になる可能性が高いケガが多くなります。
犬はどんなに大人しい性格をしていても、“咬む”生き物です。
そのため、今回研究結果を発表した研究者らは、公衆衛生機関や医療制度、そして子供の保護者達に対して、犬に咬まれないようにするための必要な情報提供を徹底するべきだと結論付けました。
犬にもあるパーソナルスペースとは?
犬は基本的に争いごとを好まない性格だと言われています。
それはなぜかと言えば、縄張りや交尾の相手を巡って対立した時、直接争えば相手を簡単に傷つける牙を持ち合わせているのを理解しているためです。
そのため、まずはそれを避けるために、ほとんどの場合には最初に相手に対して唸ったり、歯を見せたりして威嚇することで、「近寄るなよ!」といった合図を送っています。
ただ、その行動が“咬む”段階になってしまうのは、なぜでしょうか?
それは、犬の『パーソナルスペース』を侵害したからに他なりません。
他人と関わる際、人によってそれぞれ近寄っても問題ない人とそうでない人がいますよね。その違いは、人にそれぞれ備わっている『パーソナルスペース』の違いにあります。
実は犬にも人同様、『パーソナルスペース』というものが存在し、威嚇や唸りは、その一定の距離を超えている場合に表れます。
ただ、冒頭でも述べたように犬はそう簡単に相手と争うことは決してしないため、相手がその犬の警戒するスペースを超えた場合には、通常は逃走でその場を回避しようとするでしょう。
しかし、なんらかの状況、例えば今回の記事内容で言えば、子供の予期せぬ行動で、犬の『パーソナルスペース』をいとも簡単に超えてしまった場合、犬にしてみたら不意を突かれる状態と言っても過言ではありません。
そのような状態は、一気に限界距離、または、攻撃距離まで近寄られて、攻撃に転じるしか方法がなくなってしまう行為なのです。
子供が犬に咬まれないための予防策・対策とは?
では、子供が犬に咬まれないためには、どのような予防策や対策を心掛ければよいのでしょうか?
米国獣医師協会(AVMA)では、毎年4月初旬~中旬の間を全国犬咬傷予防週間と位置付けて、犬の咬みつき防止のヒントに繋がる次のようなことを情報として発信しています。
・犬のおもちゃや食べ物を取り上げたり、犬をからかったりしない
・犬の耳や尻尾を引っ張ったり、背中の上に乗ったりしない
・犬の食事中や睡眠中に邪魔をしない
・見知らぬ犬には容易に近寄らせない
・飼い主さんの許可なく犬を撫でようとしない
・犬に向かって叫んだり、走ったり、犬が予期できない動きはしない
・攻撃的な犬の場合、焦らずゆっくりとした動きを心掛ける
これら予防策は、他にもいくつかありますが、子供たちに向けて教えてあげるとするなら、最低でもこの事項は徹底しておくと良いでしょう。
上記でもお伝えしたように、犬にも人と同じような『パーソナルスペース』が存在します。
ただ、その『パーソナルスペース』は、犬によって様々なので、どこからが警戒する距離で、どこからが攻撃する距離かは、飼い主さんであってもなかなか見分けるのは至難の業です。
そんな時に重要となってくるのが、犬のカーミング・シグナルとボディ・ランゲージです。
犬に恐怖心がある時に見せるカーミング・シグナルとボディ・ランゲージ
それでは、飼い主さん側の対策として、最低限知っておきたいカーミング・シグナルやボディ・ランゲージを、怖がっている場合と警戒心が強い場合とに分けて、いくつか確認してみましょう。
まずは、愛犬に恐怖心がある時に見せるカーミング・シグナルとボディ・ランゲージをご紹介します。
怖がっている場合①:顔や体の向きを変える
例えば、ご自身の愛犬が顔や体を横や後ろに素早く動かしたり、または横を向いてしばらくそのまま動かなかったりした場合
・犬同士であれば《近づき過ぎているから落ち着いて》
・子供であれば《ちょっと怖いよ…、もう少し離れて》
このような意味合いのカーミング・シグナルが見られる場合があります。犬を迎えていない方だと、何を意味しているか分からない場合も多いため、そのままお子さんと一緒に近寄ってくることもあるかもしれませんが、一言断りを入れたり、事情を説明したりして、その場を回避しましょう。
怖がっている場合②:唇や鼻を舐める、あくびをする
愛犬が食べ物もないのに、唇や鼻を素早くペロっと舐めたり、あくびをしたりした場合
・犬同士であれば《居心地悪いなぁ…、落ち着かないよ》
・子供であれば《近づき過ぎだなぁ…、緊張を解さなきゃ》
このようなカーミング・シグナルを示すことがあります。
ただ、このカーミング・シグナルは、とても素早い動作のため、見過ごしてしまうこともあります。
そうした場合には、他にも何か示していないか、注意深く観察し、出来るだけ早くその場を移動してあげましょう。
犬に警戒心がある時に見せるカーミング・シグナルとボディ・ランゲージ
それでは続いては、犬に警戒心がある時に見せるカーミング・シグナルとボディ・ランゲージをご紹介します。
もしも見知らぬ犬がご自身のお子さん、または愛犬に警戒心を向けている時、逆に、ご自身の愛犬に何か違和感を覚えた時には、愛犬の状況や相手の犬の状況を落ち着いて判断し、ゆっくりその場を離れるよう意識してください。
警戒心が強い場合①:前のめりで尻尾を高く保っている
犬が警戒心を覗かせている時に見せる姿として、背筋を伸ばしたまま立ち、前のめりで尻尾を高く保っている場合
・犬同士であれば《これは警告だぞ!》
・子供であれば《何か危険な感じだな…、気を付けないと…。》
このような意味合いを持つボディ・ランゲージが見られることがあります。
この体勢以外にも、口をキュッと固く閉じていたり、耳を前に向けていたり、毛が逆立っていたりするため、愛犬にこのような姿が見られたなら、ルートを変更して、状況を回避しましょう。
警戒心が強い場合②:睨みつけるような目のまま姿勢が低い
犬がもしも、睨みつけるような眼差しで姿勢を低く保ち、前に進んでいこうとしている場合
・犬同士であれば《集中…、集中…。捕まえるぞ…!》
・子供であれば《よし、追いかけっこの準備はできたぞ…!》
このような意味合いを持つボディ・ランゲージが見られることがあります。このボディ・ランゲージでは、犬にとってはごく自然の行動のため、ものすごく真剣な時もあれば、ただの遊びの場合もあります。
ただし、遊びであっても犬の本気は子供を転倒させてしまう程、パワフルでもあるため、不安であれば愛犬を子供に近寄らせないよう、配慮しましょう。
まとめ
今回は、春から夏にかけて咬傷事故が多発するという研究結果と、子供が犬に咬まれないための予防策や対策方法をご紹介しました。
つい最近では、一般飼養していた四国犬が脱走したことで、大人を含めた12人の子供たちが大変なケガをしてしまったニュースも記憶に新しいと思います。
今回の事件は、被害に遭われた方のケアが第一優先ではありますが、愛犬自身に悲しい思いをさせないためにも、犬を迎えた以上は、人にケガをさせないようなしつけを常日頃から意識することが大切ですね。
<参考書籍>
犬語図鑑 doggie language 犬のボディ・ランゲージを学んでもっと愛犬と仲良くなろう
カーミング・シグナル 理論と犬のストレスを軽減するための実践的応用
<参考サイト>
More kids get dog bites in spring, summer|春から夏にかけて犬に咬まれる子供が増える
>https://www.upi.com/Health_News/2023/05/04/More-kids-get-dog-bites-in-spring-summer/5161683132890/
Dog bite prevention|犬の噛みつき予防
>https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/dog-bite-prevention
National Dog Bites Prevention Week|全国犬咬傷予防週間
>https://www.nshealthdept.org/Portals/NsHealthDept.org/dogbiteinfographic2022.pdf
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
最新記事 by yukako (全て見る)
- ワンコと遊べる遊園地!那須ハイランドパーク体感レポート!<アトラクション編> - 2024年11月18日
- ペットの“もふもふプッシュ”にご用心!愛犬によって起こる火災事例や防ぐポイントを解説! - 2024年11月14日
- 犬が人に『頭突き』をするのはどうして?その心理や対応の仕方、注意点について解説! - 2024年11月9日
- 犬の『夏毛』と『冬毛』の違いって?換毛と脱毛の違いや部位によるブラシの使い分けについて - 2024年11月8日
- 愛犬と一緒にお出掛け・旅行時の事前準備や注意点、愛犬の健康チェックリストをご紹介! - 2024年11月6日