よく「トイプードルは社交的」「チワワは怖がり」のように「○○犬の性格は~」ということを耳にしますが、同じ犬種でも臆病な子もいれば活発な子もいます。
それでは犬の性格というのは一体いつ決まるのでしょうか。
今回は、犬と共に生活していくうえで大切な「犬の性格の形成」についてお話ししていきたいと思います。
飼い主さんとの生活や接し方が関係していく部分もあるので、ぜひ最後までご覧ください。
犬の性格はいつ決まるの?
「氏(うじ)か育(そだ)ちか」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
性格を形成していくのは「生まれなのか」それとも「育ってきた環境なのか」という意味で、この考えは多くの議論を呼んできました。
現在はどちらか一方ではなく、両方が性格形成に影響していると考えられています。
つまり、「先天的な要因」である犬種や両親犬からの遺伝と、「後天的な要因」である飼育環境や飼い主さんとの関わりのどちらも、犬の性格を決めるのに関係しているという事です。
では、この「先天的要因」と「後天的要因」がどのような影響を与えるのか詳しく見ていきましょう。
犬の性格形成の「先天的要因」
▼犬の性格形成の「先天的要因」
・両親犬の性格の遺伝
・犬種による特性
・母犬の生活環境
・母犬の飼育行動
遺伝子で全てが決まっているかというとそうではありませんが、遺伝子は体や脳を作るための設計図なので母犬や父犬の性格が遺伝することもあります。
母犬のお腹で育つ時期を「胎生期」と言いますが、この胎生期に母犬にかかるストレスによって子犬のストレスの感受性(外界の刺激を受け入れる力)が変化することがわかっています。
また、母犬の養育行動の質(授乳や舐め行動の時間)が子犬のストレスや問題行動の発現、性格形成に影響を与えている可能性が示唆されています。
飼い主さんのお家にくる前のことなので、飼い主さんがコントロールすることは難しいですが、子犬が生まれてくる環境も性格形成の要因になりえるということは覚えておくことが大切です。
犬の性格形成の「後天的要因」
▼犬の性格形成の「後天的要因」
・社会化期の経験
・若年期での経験
・生活環境
・飼い主さんとの関係
後ほど詳しく解説しますが、生後3~12週齢の時期を「社会化期」といい、人と一緒に生活する上で必要な、※いろいろな刺激に順応することができるとても大事な時期があります。(※家での生活音・外での車やバイクの音・人の声など)
そしてその「社会化期」の後には飼い主さんとの関係を作っていくのに重要な「若年期」が待っています。
この「社会化期」と「若年期」に社会経験が少なかったり良くない学習をしてしまうと、不安や恐怖を感じやすくなり、臆病な性格になったり不安からの攻撃行動が起きる可能性があります。
また、人の感情は犬に伝染するということが研究によってわかってきました。家庭内でケンカが多かったり飼い主さんがイライラしている環境で犬を育てると、犬自身にもピリピリとした雰囲気が伝わって不安になったりストレスを溜めてしまいます。
犬の性格を左右する大事な時期は?
犬の性格形成は、「先天的要因」と「後天的要因」のどちらも大切ということがお分かり頂けたと思います。
それでは、飼い主さんが関われる「後天的要因」の中で性格を決めるのに大事な時期はいつなのでしょうか。
先ほど「社会化期」と「若年期」のお話しをしましたね。この2つの時期に経験したことや飼い主さんとの関わり方が、犬の性格形成に大きな影響を与えます。
社会化期での関わり方
社会化期はいろいろな刺激に順応できる時期ですし、人や物に対する愛着が形成される時期でもあります。
この時期にさまざまな人や犬、場所などに慣らしておくと、これから出会う初めてのことに対しても動じない性格になっていきます。
特に社会化期の後半では、その物に出会うと自分にとって良い事があるか、悪い事があるかという学習が活発に行われます。
そのため、ただ単に慣れさせるだけではなく、オヤツを使って接触時に良いことがあったという学習をさせることが大切です。
こういった経験をたくさんした犬は、「怖いと思っていたけど意外とそうでもなかった」「むしろオヤツが食べられて良い事があった」「別のことにもチャレンジしてみよう」と意欲が高い性格や落ち着きのある性格に育っていってくれます。
若年期での関わり方
若年期は生後13週齢~半年(性成熟まで)の期間のことをさします。
若年期だけの学習で全てが決まるわけではないですが、飼い主さんとの関係づくりの基盤となるとても大切な時期です。
若年期の犬は社会化期と比べて警戒心も強くなるだけでなく、出会う刺激に対して興奮も激しくなります。
こういった興奮や警戒心に対して繰り返し体罰的なしつけをおこなったり、逆に犬の好きにさせるような行動を取ってしまうと、犬の恐怖心や自己主張の強さに拍車をかけてしまいます。
つまり恐怖からの攻撃を行うようになったり、我慢が抑制できない犬に育っていってしまいます。
家庭環境によっても犬の性格は変わる?!
最初に、「人の感情は犬に伝染する」とお話ししたことを覚えてらっしゃるでしょうか。
この研究は、スウェーデンの大学でボーダーコリー25頭とシェットランドシープドック33頭を対象に行った実験が元になっています。
人も犬も過度なストレスを受けると「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。飼い主さんの髪の毛と犬の毛を採取しそれぞれコルチゾールの濃度を測定したところ、飼い主さんのストレス度が高ければ高いほど、犬のストレス度も高いことがわかったそうです。
そしてさらに、飼い主さんの性格によっても犬のストレス度が変わっているということがわかりました。
つまり、飼い主さんが不安を抱えやすい性格であると、犬も不安を抱きやすい性格になっていってしまうということがいえるのです。
穏やかな犬に育てるためには?
では、愛犬を穏やかな性格に育てていきたいと思ったらどんな風に接していくことが大切なのでしょうか。
ポイントを「4つ」まとめてみました。
①自分の性格やライフスタイルに合う犬種を選ぶ
犬の性格は犬種の特性や遺伝の影響もあります。
例えば、運動が苦手でインドア派の方がボーダーコリーを飼ってしまうと、頭を使うことだけでなく無限の体力を発散させないといけないので、自身のライフスタイル変える必要がでてきます。
「これはダメ」「あれは諦めて」とお願いばかりしていると、飼い主に対して犬が不信感や不満を募らせるので、犬を選ぶ段階で自身に合いそうな犬種を選びましょう。
➁飼い主さん自身もメンタルを落ち着ける
先ほど犬に人の感情が伝染するとお話ししました。
そのため、飼い主さん自身も感情をコントロールしたり、心のケアをすることが大切です。
➂犬目線の接し方やしつけを学ぶ
性格を形成していくうえで「社会化期」と「若年期」が大切であるとお話ししました。
犬の学習は「飼い主さんが積極的に教えること」と「犬が飼い主さんの反応をみて覚えること」の2つあります。
この時期に間違った対応やしつけを学習させると、その後大きな問題行動(吠えや噛みつきなど)に発展しかねません。
迷ったときや悩んだときは、ドッグトレーナーや行動療法の獣医師さんなど、専門家に相談しながら犬目線のしつけを取り入れていきましょう。
④愛犬自身のことを受け入れる
犬と生きていくうえで大切なことは、飼い主さんが犬の変えられない部分を受け入れてあげるということです。
例えば、飼い主さんが「他の犬ともっと仲良くしてほしい」と願っても、社会化期に「他の犬が苦手」と学習してしまえば願いをかなえるのは難しくなります。
ただその後の学習で、「距離をあければ安全だよ」「同居の子は安全だよ」と教えることはできるので、飼い主さんの希望と異なっても個性として受け入れて、その子に合わせた生活を送らせてあげることが大切です。
人の生活は仕事や家事などさまざまな物事に囲まれていますが、犬の大部分を占めるのは飼い主さんです。
犬の性格の骨組みを作るのは遺伝などである先天的要因ですが、肉付きを作るのは後天的要因である飼い主さんとの時間によるところが大きいです。
犬が穏やかに育っていけるように、適切な環境をつくって接してあげたいものですね。
<参考書籍>
・動物の精神科医”が教える 犬の咬みグセ解決塾
・動物看護のための動物行動学
<参考URL>
Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners
>https://www.nature.com/articles/s41598-019-43851-x
母性因子による仔イヌの神経内分泌学的発達のメカニズム解明
>https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-21880046/21880046seika.pdf
飼い主のストレスは愛犬に伝染 最新研究で判明
>https://style.nikkei.com/article/DGXMZO46293970Z10C19A6000000/
<画像元>
Unsplash
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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