赤ちゃんのことを優しく見守るわんちゃんや子守のような仕草をみせるわんちゃんをSNSやテレビでよく見かけますね。
わんちゃんは赤ちゃんが大好き、弱い存在を守ってくれると思われがちですが、正しい知識や認識を持っていないと実は危険なことも多く潜んでいます。
赤ちゃんとわんちゃんが良い関係を築いていくために、大切なことを一緒に学んでいきましょう!
犬の噛傷事故 30%以上が15歳未満の子供
犬の噛傷事故の調査(沖縄県で実施)によると、8年間で犬に噛まれて病院を受診した人は506人、そのうち166人が15歳未満の子供でした。事故が起きた場所は室内や庭が多く、65%が飼い犬によるものでした。
全体の30%以上が子供への噛傷事故と考えると、愛犬と子供を触れ合わせるときには十分気を配る必要があることがわかります。
また4歳以下の幼児では、約40%が頭や顔を噛まれたと報告されています。幼児は身長も低く皮膚もまだ薄いため、ちょっとしたことでも大怪我に繋がる可能性があります。
では、どうして子供の噛傷事故が多いのでしょうか。
どうして犬の噛傷事故は起きるのか?
❖犬のストレスサインの見落とし
噛傷事故が起きると、「大人しかったのに」や「急に噛んだ」という話をよく耳にします。
どんなに懐いていても、どんなに大人しくても絶対に噛まない、襲わないという事はありません。
多くの場合、噛む前や襲う前に「やめてほしい」というわんちゃんのストレスサインが出ています。
大人は気づいてあげることができますが、赤ちゃんはまだわかりません。
サインを無視して、愛犬の入ってきてほしくない場所に入ったり、触られたくない場所を急につかみます。
そのため驚いて攻撃したり、我慢が限界に達して攻撃してしまうのです。
❖狩猟のスイッチが入ることもある
わんちゃんには多かれ少なかれ、獲物を追って仕留めるという狩猟の本能があります。
どんなにしつけをされたわんちゃんでもコントロールすることは難しく、小さいものが動いたり激しい動きをすると狩猟のスイッチが入ってしまうことがあります。
赤ちゃんは予測できない動きをしたり、ハイハイで動き回ったりするので、狩猟の本能を刺激しやすいのです。
また目線の位置が低いため、わんちゃんと正面で目が合いやすく、わんちゃんが威嚇されていると思って襲ってしまうこともあります。
❖犬にも嫉妬のような感情がある
わんちゃんにも自分に関心を向けてほしいという嫉妬に似た感情があることが実験によってわかっています。
人にとって赤ちゃんは家族ですが、わんちゃんからすると急に自分の縄張りに現れた侵入者です。
特に赤ちゃんが来る前は愛犬中心の生活をしていると、自分の居場所や飼い主さんの愛情を奪われてしまうとショックを受けて排除しようと攻撃をすることがあります。
❖環境の変化が大きなストレスに
赤ちゃんとの共同生活はわんちゃんにとっても大きな環境の変化です。
毎日行っていた散歩や運動が少なくなった、ケージに入れられるようになったなど赤ちゃんが来る前には当たり前だった習慣がなくなると、わんちゃんは強いストレスを感じます。
特に遊びや散歩、運動はわんちゃんの欲求を満たす大切な行動です。欲求が満たされず、ストレスがたまった末の攻撃という事もあるのです。
知っておきたい噛傷事故による感染症のリスク
ペットから人に感染する病気もあります(人獣共通感染症といいます)。
上の図は人獣共通感染症の患者の診察経験があるかを調査したグラフです。
皮膚科や小児科が多く、皮膚科では5割の医師が動物由来の感染症を診察した経験があるそうです。
糸状菌症という皮膚病にかかったわんちゃんの菌が子供に移ってしまい、脱毛や皮膚炎が出た例やわんちゃんに口を舐められて※パスツレラ症に感染してしまった例も報告されています。
わんちゃんが悪いのではなく、過度な接触を避ける、触った後に手を洗うなどで感染リスクを下げることができます。
赤ちゃんはまだ抵抗力が弱いので、口まわりをなめさせない、わんちゃんのおもちゃを口に入れさせない、過ごすスペースを犬と赤ちゃんでそれぞれ分けるなど大人が配慮してあげましょう。
※パスツレラ菌は犬の口にいる常在菌。犬に悪さはしませんが人に感染すると皮膚が腫れあがったり化膿したりします。副鼻腔炎の悪化も報告されています。
愛犬と良い関係を築くためには?
❖ストレスサインを見落とさない
噛んだり襲ったりする前に、必ず「ウー」と唸るわけではありません。
ストレスサインで「いやだよ」と伝えて、我慢の限界を超えて噛む、自分を守るために噛むという事もあります。
赤ちゃん=優しくしないとダメというのは、人側の都合でわんちゃんにはわかりません。
ストレスサインを見落とさないようにしましょう。
❖適度な距離をとる
衛生面からも安全面からも、赤ちゃんとわんちゃんで過ごすスペースをそれぞれ分けることをオススメします。
飼い主さんが目を離した瞬間に事故がおこることもあるので、どんなに短時間でも赤ちゃんとわんちゃんを同じスペースで二人きりにさせることは避けましょう。
❖赤ちゃんが来る前の習慣は守る
毎日一緒に寝ていたのに寝れなくなった、接する時間が減ったなど赤ちゃんが来たことで大きく習慣が変わってしまうと、ストレスになるだけでなく赤ちゃんに対して嫌な印象を植え付けてしまいます。
赤ちゃんが来る前に行っていた習慣はできる限り守ってあげましょう。
❖犬との接し方を教える
子供にある程度分別がつくようになったら、愛犬との接し方を教えてあげましょう。
例えば触ったら嫌な場所がある、ご飯や寝ているときは触ってはいけない、触ったら手を洗うなど、適切な接し方を少しずつ教えていくことで、愛犬と良い関係を築いていくことができます。
気を配らなければならないこともありますが、子供の頃に犬を飼うと喘息のリスクが下がる(アレルギーが無い場合)、子供の情調が安定するなどわんちゃんと一緒に育つことで、得られるものもたくさんあるのです。
❖心の余裕を持てる環境を作る
わんちゃんは飼い主さんの心の変化を敏感に察知します。
飼い主さんがイライラしていたり、嫌々接しているとわんちゃんも不安や辛い気持ちになってしまいます。
ペットシッターさんを雇う、家族に相談するなど心にゆとりを持てる環境作りを作りましょう。
赤ちゃんとわんちゃんの微笑ましい動画や写真は多いですが、わんちゃんのストレスサインが出ていることも多くあります。
噛傷事故や感染症を未然に防ぐには、正しい知識を持って事前に予防することが大切。
怪我や病気をしてから行動するのではなく、わんちゃんと赤ちゃんが良い関係を築いていけるように配慮してあげたいですね。
<参考文献>
・子供に伝える犬と仲良くなる方法 日本獣医生命科学大学 水越 美奈
・ペットからうつる感染症 感染症診断・治療へのアプローチ 三菱化学メディエンス
・Early Exposure to Dogs and Farm Animals and the Risk of Childhood Asthma
<画像元>
illust STAMPO
pixaday
Unsplash
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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