犬を避妊・去勢した後、「太りやすくなる」「食欲が増した」という事を聞いたことはありませんか?
避妊・去勢の手術が、どうして体形や食欲に影響してしまうのでしょうか。
今回は「どうして避妊去勢後に太りやすくなるのか」「太らないために何をすればいいか」についてお話ししていきたいと思います。
犬が避妊・去勢をすると太りやすくなるってホント?
避妊・去勢をするとよく「太ってしまった」と聞きますね。
でもそれって本当なのでしょうか。
「避妊・去勢」と「太りやすさ」の関係は、さまざまな国で調査されており、論文もいくつか出ています(記事の終わりの「参考URL」に論文を貼っておりますので、興味がある方は読んでみてください)。
日本での調査結果(2016)
明治大学の研究チームは、日本の1,020の動物病院から犬のデータ(年齢や体形など)を収集し、そのデータがどう「太り気味の犬」「肥満の犬」と結びついているかを調べました。
4,761頭のデータを元に肥満の危険因子を調べたところ、下記のことがわかりました。
▼調査結果でわかったこと
・同犬種で比べても不妊手術をしている犬は、していない犬より太りやすい
・不妊手術を受けた小型犬・トイ犬は、大型犬より太りやすい
アメリカでの調査結果(2019)
アメリカヘルスチャリティーの調査チームは、ゴールデンレトリバーの健康状態を長期に観察する「Golden Retriever Lifetime Study」に参加する犬を対象に「肥満と不妊手術」の関係を調査しました。
すでに肥満体形だった犬を除外し、2,767頭を調査したところ、下記のことが判明しました。
▼調査結果でわかったこと
・不妊手術のタイミングにかかわらず肥満のリスクが高まる
・不妊手術をした場合、メスよりオスの方が肥満リスクが高かった
(手術をしていない場合は逆)
オーストラリアでの調査結果(2005)
調査チームは、国内の52の動物病院に行ったアンケート結果を元に、2,661頭分の体形データと肥満の危険因子を調査しました。
その結果、下記のことが判明しました。
▼調査結果でわかったこと
・2,661頭中892頭が太り気味(全体の33%相当)
・2,661頭中201頭が肥満(全体の7%相当)
・痩せ体形の犬を除外し分析すると、全体の7割以上が不妊手術済だった
・加齢とともに肥満のリスクが高くなる
中には「肥満と不妊手術は関係がない」といった論文もありますが、国内も国外も大半が「不妊手術をすると太りやすくなる」という結果を占めています。
では、どうして「不妊手術」をすると太りやすくなってしまうのでしょうか。
犬が避妊・去勢手術で太る・食欲が増える理由は?
避妊・去勢をすると「太りやすくなる」「食欲が増す」といった変化が起こります。
その理由はいったいなんなのでしょうか。
詳しい原因はまだ解明されていませんが、ホルモンが関係しているのではないかと考えられています。
原因だと言われているものをまとめてみました。
▼避妊・去勢手術後に「太る」原因
・ホルモンが減少すると代謝が落ちる
・食欲を押さえるホルモンが減少する
少しわかりにくいので、解説しますね。
性ホルモンは体の代謝とも関係しているので、避妊・去勢手術をすると性ホルモンが減少し、体の代謝が落ちます。
例えば、体を維持するのに今までは100%エネルギーが必要だったけれど、70%くらいで足りるような体になってしまうということです。
また、ホルモンの中には「食欲を抑える」という働きをするものがあります。
避妊・去勢の手術をすると、食欲を抑えるホルモンが影響を受けるので食欲が増します。
つまり、代謝は落ちて太りやすくなった体なのに、食欲は増しているという状態です。
「太りやすくなる」というのがよくわかりますね。
また、年齢が高くなると徐々に代謝が落ちて太りやすい体になります。
避妊・去勢後の体の変化や手術を受けた年齢のことを頭にいれておかないと、今までと同じような食生活をさせていたら、肥満になりやすくなってしまうので注意が必要ですね。
犬を太らせるとダメな理由
「肥満はよくない」「太らせるとよくない」とよく耳にしますね。
どうして肥満がよくないと言われるのでしょうか。
理由を図にまとめてみました。
図を見るとわかるように、「肥満」はさまざまな病気を引き起こすきっかけになります。
肥満になると「関節に負担がかかる」や「心臓に負担がかかる」というのは想像しやすいと思いますが、それだけではなく「糖尿病による失明」や「皮膚病」まで招きやすくなってしまうんですね。
また、犬には「散歩でいろいろな場所を探索したい」「縄張りを点検したい」という本能的な欲求がありますが、肥満になると長時間の散歩に体がついていきません。
結果として十分に動くことや探索ができなくなってしまい、犬としての欲求が十分満たせずストレスが溜まりやすくなります。
肥満はさまざまな病気を招きやすくするだけでなく、犬としての楽しみまで奪う可能性が出てくるのですね。
避妊・去勢後に太らせないために気をつけること
では避妊・去勢の手術をした後に、太らせないように気をつけるべき事は何でしょうか。
注意点は「2つ」あります。
▼避妊・去勢後に気をつけること
・運動を十分にしよう
・ドッグフードやオヤツのカロリーを見直そう
運動を十分にしよう
避妊・去勢後はしっかりと運動をするように意識しましょう。
散歩の距離を長くするのもいいのですが、なかなか難しい場合は運動負荷を少し高くするのがオススメです。
オススメの運動方法
●平坦な場所だけでなく「坂道があるルート」を取り入れる
●芝生や砂浜など「しっかりと後足を使える」場所を歩く
●散歩の中盤に「全身運動(ランニングやボール遊びなど)」をできる時間を作る
●散歩にプラスして家の中で「犬の筋トレ」をおこなう
特に「犬の筋トレ」は将来の寝たきり予防にもなるトレーニングです。
家の中で手軽にできますので、散歩の時間がなかなか伸ばせない、犬の体力が不安という方はぜひ取り入れてみてくださいね。
▼犬の筋トレ方法を紹介しています。
ドッグフードやオヤツのカロリーを見直そう
避妊・去勢後は体の代謝が落ちがちになるので、食べているドッグフードやオヤツのカロリーを見直しましょう。
いままで使っていたドッグフードの量を減らすという手もあるのですが、量を減らしすぎると栄養が足りなくなってしまい、別の病気を引き起こす可能性もあります。
少しカロリーが抑えられているドッグフードやオヤツを検討してみてくださいね。
また今までの量がもらえなくなると、食べ物への執着が強くなることもあります。
オヤツやドッグフードを与えるときは、ただ与えるのではなく鼻や脳を使った遊びの報酬として与えるなど、食べ物を得るときに達成感も味わえるように工夫してあげるといいですね。
手術後に体形が変わらないという犬ももちろんいますが、手術後に起こる変化を知っておいて、備えることは病気予防の観点からも、とても大切なことです。
手術後にぽっちゃりしてきたかなと感じたら、ぜひこの記事の内容を役立ててくださいね。
<参考URL>
Characteristics of obese or overweight dogs visiting private Japanese veterinary clinics
>https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2221169116301587
Age at gonadectomy and risk of overweight/obesity and orthopedic injury in a cohort of Golden Retrievers
>https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0209131
Prevalence of obesity in dogs examined by Australian veterinary practices and the risk factors involved
>https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15923551/
犬・猫における避妊手術のメリットとデメリット:アンケート調査の結果
>https://ci.nii.ac.jp/naid/130004051208
犬の去勢が脂質代謝関連物質に及ぼす影響に関する研究
>https://core.ac.uk/download/pdf/159417064.pdf
犬の去勢が体組成に及ぼす影響に関する研究
>http://repository.nihon-u.ac.jp/xmlui/bitstream/handle/11263/213/Kobayashi-Toyokazu-3.pdf?sequence=3&isAllowed=y
犬の避妊(卵巣除去)/去勢に関する長期的な健康面でのリスクと利点
>http://at-b.com/wordpress/wp-content/uploads/2013/05/LongTermHealthEffectsOfSpayNeuterInDogs-wayaku2.pdf
<画像元>
Unsplash
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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