愛犬の歯石やお口のケアにお悩みの飼い主さんは多いですね。
「歯石は取りたいけど麻酔をかけるのが心配」「高齢だから麻酔はかけたくない」との思いから、サロンなどで無麻酔での歯石取りを選択する方もいらっしゃいます。
しかし、サロンや麻酔なしで歯石を取るのには、多くのリスクが生じることはご存じでしょうか?

無麻酔歯石取りの知っておくべき7つのリスク

「麻酔は犬の体に負担」「最悪の場合、死亡することもある」こういったことを見聞きすると、無麻酔歯石取りを選びたくなるのが飼い主さんの心情ですね。
しかし、麻酔をかけないことが犬の体に優しいのかというと、全くそうではありません。むしろ、麻酔をかけずに処置することで危険が増すこともありますし、実際に死亡事故も起こっています。
では、麻酔なしで歯石を取ることは、どんな危険とリスクがあるのでしょうか?
無麻酔歯石取りの7つのリスク
①犬が動くことで口の中を傷つける
➁犬を長時間保定することによる弊害
➂犬が痛い思いをする
④犬が歯石を飲み込む
➄犬にストレスがかかる
⑥犬の骨折の可能性
➆犬が口を触らせてくれなくなる
こうして見てみると、多くのリスクを伴うことがわかりますね。
ひとずつ詳しく見ていきましょう!
①犬が動くことで口の中を傷つける
歯石を取るための器具は先が尖っていたり、先に刃物が付いています。
歯は唾液で湿っているので刃先が滑りやすく、わんちゃんがちょっと動くだけでも、刃先で口の中を傷つけてしまいます。
ちょっと口が切れるだけのイメージかもしれませんが、舌の近くには大きな血管や唾液線もあるので、切った場所によっては大事故になってしまいます。
➁犬を長時間保定することによるの弊害
保定とは?
治療中にわんちゃんが動かないように押さえることを「保定」といいます。
力任せに押さえるのではなく、犬の関節の動きや無理のない体制を把握し、犬の気持ちや状態を瞬時に読み取りながら行うので、非常に高度なテクニックが必要です。
通常、保定は犬に負担をかけないように短時間で行いますが、無麻酔で歯石を取ろうとすると短時間では終わりません。
歯石を取る間はずっと保定を行うので、わんちゃんに負担をかけてしまいます。
また、保定者に十分な知識や技量がないと、力任せや無理な体制で押さえてしまい事故に発展しかねません。
実際に無麻酔の歯石取りで「窒息」や「股関節脱臼」の事故が報告されています。
ちいさくて、おおきな子~無麻酔下の歯石除去による死亡事故
>https://note.com/mutsukitorako/n/n70da7c58dffc
上の記事は無麻酔で歯石取りを行い、愛犬が事故にあってしまった方の記事です。
愛犬家の方、無麻酔で歯石取りを検討している方は、一度目を通すことをオススメします。
➂犬が痛い思いをする
麻酔をする理由の一つとして、わんちゃんを痛みから守ってあげる役割があります。
正しく口内ケアと歯石取りをしようとすると、非常に痛いです。
人の場合、歯医者に行く理由がわかるので多少痛くても我慢できますが、わんちゃんは理由がわからないまま長時間痛みに耐えることになります。
歯石がひどい場合や奥歯は特に処置中に痛みを感じますし、麻酔をかけないと処置ができない歯はそのまま残されてしまいます。
④犬が歯石を飲み込む
歯石は死んだ菌の塊です。わんちゃんが処置中にむせて、歯石がうっかり気管に入ってしまうと、肺炎を引き起こす可能性があります。
また、処置中に取れた歯石をわんちゃんが飲み込んでしまう可能性もあります。(麻酔をかけるとチューブが喉を塞ぐので気管に入ったり飲み込む心配はありません。)
➄犬にストレスがかかる
●長時間、体を押さえられる
●口の中を触られる
●痛みに耐える
上記のことは、どれもわんちゃんにストレスがかかる行為です。
ストレスや極度の緊張は、呼吸困難や胃腸炎を引き起こします。
麻酔なしは、「年齢が高い」「持病がある」「肥満」の理由から、選択されることが多いです。しかし、そういった子を仰向きで長時間押さえたり、ストレスをかけることは高いリスクを伴います。
⑥犬の骨折の可能性
実際に無麻酔で歯石取りをして、あごを骨折して口が閉じなくなった事例が報告されています。
無麻酔歯石取りによる下顎骨骨折を治療したAちゃん 相川動物医療センター
>https://aikawavmc.com/specialize/?specializeId=171
歯周病が進行すると歯周病菌はあごの骨も溶かすので、骨が非常にもろくなります。
そのため、ちょっとした衝撃や圧力を与えただけでも折れてしまいます。
歯周病の進行具合は、目視だけでなくレントゲン等で確認しますが、設備や術者(レントゲン技師)が居なければ確認せずに着手するため非常に危険です。
➆犬が口を触らせてくれなくなる
日本小動物歯科研究会 は無麻酔で歯石取りを行った後、お家でのケアが難しくなる場合が多いと報告しています。
処置で嫌な思いや痛い思いをしたわんちゃんは、なかなか口を触らせてくれなくなります。
歯石を取った後はその後のケアがとても重要になりますが、それも難しくなります。
無麻酔歯石取りの効果は不十分?!

無麻酔の歯石取りは多くのリスクが潜んでいることがわかりました。
では、「無麻酔で歯石を取った場合」と「麻酔をかけて歯石を取った場合」効果の違いはあるのでしょうか?
実は無麻酔で歯石を取った場合、ちゃんとしたケアにならない可能性があります。
無麻酔歯石取りの効果は不十分かも?!
①歯石を取ったあと研磨をかけない
➁歯周ポケットをケアしない
➂歯の裏側や細かい部分のケアができない
①歯石を取ったあと研磨をかけない
歯石をとった後、歯の表面はギザギサになっています。そのままだと歯垢や歯石が付着しやすいため、歯の表面を研磨する必要があります。
しかし無麻酔での歯の研磨は非常に難しく、研磨が不十分であったり、研磨をかけなかったりするとかえって歯石や歯垢を付着しやすくしてしまいます。
➁歯周ポケットをケアしない
歯石が無くなれば、歯周病ケアや口臭予防になると思っていませんか?
歯周病は歯石ではなく「歯周ポケットに潜む菌」が原因です(口臭はその菌が出す匂いです)。
そのため歯周ポケットまで掃除をしないと意味がなく、目に見える歯は綺麗だけれど、目に見えないところで歯周病が進行しているという事になりかねません。
実際にこまめに歯石を取っていたけれど、目に見えないところで歯周病が進行し、抜歯が必要になった事例が報告されています。
無麻酔処置にこだわりすぎて陥る罠 犬と猫の歯科クリニック
>https://yoko-dogdental.com/column/column-197
➂歯の裏側や細かい部分のケアができない
歯石は見やすい部分だけについているわけではありません。
歯の裏側や下あごの歯など舌が邪魔して処置がしにくい部分にも付着しています。
麻酔下であれば色んな角度からアプローチができますが、麻酔をかけていない状態だと細かい部分へのアプローチが難しくなります。
獣医師以外が歯石取りをする危険性

無麻酔で歯石に関して下記のことがわかりましたね。
●多くのリスクある
●効果が不十分な場合もある
では、歯石取りを行う場所に関してはどうなのでしょうか?
無麻酔で歯石取りを行っているのは、サロンだったりクリニックだったりしますね。
爪切りなどと同類で考えられがちですが、歯垢や歯石の除去はれっきとした診療行為です。
診療行為は獣医師法第17条によって、獣医師以外が行ってはならないと定められています(動物看護師が国家資格に変わるので今後は変わるかもしれません)。
どうして獣医師以外が、歯垢や歯石を取ってはいけないのでしょうか?
獣医師以外が歯石を取ってはいけない理由
●器具の訓練を受けていないと事故を起こす可能性がある
●犬に異変が出たときにすぐに対処ができない
●犬の異変に気づけない
●歯石を取る前に詳しい検査や確認ができない
上記をみるとわかるように、犬の口腔ケアには専門的な知識と技術が必要で、事故が起きた時にすぐ対処できなければ犬の命が危険です。
しかし近年、口腔ケアが許されていないトリマーやサロンで行われる無麻酔歯石取りによる弊害が多発しており、日本小動物歯科研究会が注意喚起を出しています。
「日本小動物歯科研究会」が「無麻酔歯石取りの危険性」に関して見解を発表しています。
事故例も紹介しているので、興味がある方はぜひ目を通してみてください。
>https://www.sadsj.jp/download/dental_scaling.pdf
わんちゃんの体のことを考えて選んでいるはずの歯石取りが、選んだ場所によってはわんちゃんを危険にさらしてしまうこともあるのです。
飼い主さんが愛犬のために考えるべきことは?

さて、わんちゃんの無麻酔歯石取りに関して下記のことがわかりましたね。
●無麻酔で歯石を取るのには7つのリスクがある
●無麻酔で歯石を取った場合、効果が不十分なことがある
●獣医師さん以外の歯石取りはリスクがある
では、今までのことを踏まえて飼い主さんが、考えるべきことは何でしょうか?
大事なことが2つあります。
①なぜ麻酔をかけるのかを知ること
➁歯科が得意な獣医師さんを見つけること
①なぜ麻酔をかけるのかを知ろう
麻酔の事故を聞いてしまうと、どうしても「麻酔=怖い」という図式が成り立ちます。
ではどうして歯石を取る時に、犬に麻酔をかけるのでしょうか?
麻酔をかけるメリット
●獣医師さんが処置に集中できる
●さまざまな角度から細かく処置ができる
●口の中を傷つけるリスクが減る
●犬に痛みや恐怖を与えない
●処置中に犬を押さえなくてすむ
●処置中に取れた歯石や汚れを犬が飲み込まない
処置を行う獣医師さんだけでなく、わんちゃん側にもたくさんのメリットがあります。
麻酔をかけないという選択は、上記のメリットがすべてデメリットに変わってしまいます。
「麻酔なし=安全」というイメージがありますが、実際には無麻酔歯石取りでも死亡事故や骨折事故が起こっています。
➁歯科が得意な獣医師さんを見つける
信頼できる歯科専門の獣医師さんを見つけて処置を受けましょう。
歯科専門の動物病院は、治療と同じくらい予防歯科にも力を入れています。
麻酔をかけてしっかりと処置をしてもらった後、歯みがきと定期健診を行いましょう。
持病があったり年齢が高くても、麻酔がかけられないわけではないので、納得がいくまで話し合うことが大切です。
動物病院での無麻酔歯石取りに関して
動物病院で無麻酔歯石取りを行っている場合もあります。
知識や経験が豊富や獣医師さんであれば、いざという時も安心です。
しかし、動物病院であっても無麻酔歯石取りの「7つのリスク」や「麻酔をかけないデメリット」はなくなりません。
また、骨折など目に見える事故には注意していても、犬の心のケア(痛みや恐怖はトラウマになります)までは触れていないことが多いです。
無麻酔で処置をする必要があるのかをしっかりと考えて決めましょう。

無麻酔歯石取りはデメリットも多く、特別な事情がない限りはオススメしません。
愛犬をどこに連れて行ってどんな治療を受けさせるのかは、飼い主さんの選択によるところが大きいです。
「麻酔をかけたくないから」「麻酔をかけるより安いから」「早く終わるから」という判断だけではなく、幅広く情報を知って選択してあげましょう。
<参考文献>
・無 麻 酔 で 歯 石 を と る ? !
https://www.sadsj.jp/download/dental_scaling.pdf
・無麻酔処置にこだわりすぎて陥る罠
https://yoko-dogdental.com/column/column-197
・無麻酔下の歯石除去について 日本獣医学会
https://www.jsvetsci.jp/10_Q&A/v20131004.html
<画像元>
Unsplash
写真AC

・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。

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