犬に歯磨きをするのは大切というのはわかっていても、なかなか愛犬の歯磨きが継続できないという飼い主さんは多いのではないでしょうか。
歯磨きを怠ると歯周病を発症しやすくなりますが、最近の調査によると歯周病を発症している犬は発症していない犬に比べて腫瘍や腎臓病などの病気を発症するリスクが高くなるということがわかってきました。
今回は「歯周病の犬がかかりやすい病気」や「どうして歯周病を発症すると病気にかかりやすくなるのか」を解説していきますので、愛犬の健康管理にぜひお役立てください。
<目次>
歯周病に感染している犬のお腹には「歯周病菌」がいっぱい?!
歯周病は歯周病菌によって引き起こされる炎症性の病気で、進行すると歯茎や歯を支える骨などが溶けてしまいます。
歯周病に感染しているということは、それだけ口の中に多くの歯周病菌が存在しているということなのですが、恐ろしいことに歯周病菌は口の中だけに留まらず唾液や食べ物と一緒に腸へ移動するということがわかってきました。
ペット保険のアニコムホールディングス㈱が行った調査によると、犬の腸内の細菌を調べたところ約12%の犬の腸内から1種類以上の歯周病関連菌が検出されたそうです。
▼腸内の歯周病関連菌の検出率(総データ数192,096件)
検出率が12%と聞くと少ないのではという気になりますが、腸は体最大の免疫器官なので悪玉菌と認識された歯周病菌が免疫細胞によって攻撃され、検出数が下がったと推測されています。
裏を返せば免疫の働きが悪くなってくると、歯周病菌は生き残り悪さをしやすい環境であるということです。
歯周病菌は住みやすい環境になると爆発的に増殖しますし、歯周病の発症は高齢になるほど高くなっていくので、決して楽観視できる数字ではないと思われます。
そして怖いことに、この歯周病菌たちは口の中の病気だけではなく、いろんな病気にかかるリスクを増加させることがわかってきました。
歯周病はあらゆる病気にかかるリスクをあげる
では歯周病にかかると、どういった病気にかかりやすくなるのでしょうか。
アニコム損害保険㈱が行った調査によると、歯周病に感染している犬は健康な犬に比べて心臓病の発症率が1.7倍、腎臓病の発症率は3.5倍になることがわかりました。
▼犬の歯周病が翌年の病気に与える影響
さらに腫瘍に至っては口腔内腫瘍をはじめ、あらゆる腫瘍の発症率が高くなっており、口腔内腫瘍では5.4倍、乳腺腫瘍では2.4倍と非常に高くなっています。
▼歯周病と各腫瘍性疾患の関係
心臓病や腎臓病は発症すると犬の生活の質に大きく影響しますし、寿命にも関係します。
また腫瘍が悪性だった場合、治療が遅れると近くの臓器やリンパ節に転移するので、根治が難しく手術や通院も必要になります。
「歯周病は万病の元」といいますが、グラフの発症率を見てみると実際に多くの病気を発症する引き金になっているので、歯周病の予防が愛犬の健康を守るうえでいかに大切なことなのかがわかりますね。
どうして歯周病になると病気にかかりやすくなるの?
では、どうして歯周病になると病気にかかりやすくなるのでしょうか。
理由は2つあります。
▼歯周病になると病気にかかりやすくなる理由
①「歯周病菌が炎症を引き起こすから」
②「歯周病菌が腸に行くことで腸内の細菌バランスが崩れるから」
① 「歯周病菌が炎症を引き起こすから」
口の中で増殖した歯周病菌は血液や唾液と一緒に体の奥へ侵入してきます。
侵入してきた歯周病菌は悪玉菌と判断されるので、免疫細胞たちが体を守ろうと攻撃し戦います。
その戦いの中で起きるのが「炎症」です。
また、歯周病菌はさまざまな化学物質を作り出します。
この化学物質も炎症を引き起こす作用があるため、血液にのって化学物質が臓器に行き着くと、その臓器で炎症を引き起こします。
こういった炎症が心臓病や腎臓病といった多くの病気を引き起こす原因になると考えられています。
歯周病を根本的に治療しなければ、歯周病菌が常に侵入しつづける環境なので、慢性的に炎症を引き起こして症状がより深刻化していきます。
② 「歯周病菌が腸に行くことで腸内の細菌バランスが崩れるから」
最初に少し触れましたが、腸は体最大の免疫器官で「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」がバランスを取りながら住んでおり、善玉菌が優勢であれば免疫が働きやすい環境です。
どれか1つがいればいいというわけではなく、色んな菌がいいバランスで住んでいることが大切です。
しかし、歯周病に感染すると常に大量の悪玉菌が唾液と一緒に腸の中に流れ込むため、細菌バランスが崩れて腸内環境が乱れやすくなります。
腸内環境が乱れると免疫が働きにくいため、なにか病気を発症しても体を守ることができず症状が悪化していってしまいます。
歯周病菌は高齢になるほど検出されやすい
歯周病に関して怖いことがもう一つわかっています。
それは腸内の歯周病関連菌の検出率は、高齢になればなるほど増えていくということです。
下のグラフは年齢別に腸内の歯周病関連菌の検出率を調べた調査結果ですが、年齢が上がると歯周病菌の検出率も右肩上がりに増えていっていることがわかります。
▼年齢別歯周病関連菌の検出率
高齢になると免疫機能が働きにくくなるので、ちょっとしたことでも重症化しがちです。
そこに歯周病によるさまざまな病気の発症リスクが加わるので、年をとればとるほど病気にかかりやすく、悪化しやすい環境になっていくということが考えられます。
歯周病予防のために高齢の犬はもちろんですが、若いうちからデンタルケアを習慣化することが大切ですね。
歯周病にかかると歯だけの病気にとどまらず、心臓病や腫瘍といった重篤な病気の発症リスクも高くなることがわかりました。
歯周病を予防するためには歯磨きをすることが大切です。
愛犬の歯磨きが苦手という飼い主さんは多いと思いますが、将来の病気を予防するためにも頑張って習慣化していきたいですね。
<参考URL>
家庭どうぶつ白書2024 アニコムの取り組み
>https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_202412_3.pdf
アニコム がんを含む全ての疾病予防に係る共同研究
>https://www.anicom.co.jp/news-release/2024/20240723/
アニコムと大阪大学、アース製薬が共同研究を開始
>https://www.anicom-sompo.co.jp/news-release/2023/20230619/
がん予防を口腔ケアで実現
口腔ケアによるがんを含む全ての疾病予防に係る共同研究への参画について
>https://www.anicom.co.jp/news-release/wp-content/uploads/2024/07/nihonnkoukuukagakukai.pdf
腸のおもしろ話 第5回 歯周病が腸に影響?!
>https://www.kenkodojo.com/guts/detail5/
<画像元>
canva
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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