「愛犬を抱っこしていたら誤って落としてしまった!」
「愛犬がソファに昇ろうとしたら足を滑らせて落下した!」
「フローリングを走った弾みで滑って転んだ!」
このような場合に、頭を強く地面に叩き付けられたことで起こるのが脳震盪ですが、犬の脳震盪は人の脳震盪以上に注意が必要なのをご存知でしょうか?
今回は、犬が脳震盪を起こしてしまった時の症状や治療法、また、容体急変や後遺症の可能性などを解説します。
<目次>
犬の脳震盪(のうしんとう)とは?
世間一般でよく耳にする脳震盪とは、一体どういったものを指すものなのでしょうか?また、人が起こす脳震盪と犬が起こす脳震盪では、何か違いがあるのでしょうか?
基本的な脳震盪の定義について見ていきましょう。
脳震盪の定義とは?
脳震盪(のうしんとう)とは、一般的に外部からの何らかの原因によって、頭に強い衝撃が加わったり揺さぶられたりした結果、脳に歪みが生じ、脳障害を引き起こしてしまう症状の事を指します。
軽度の衝撃であれば、頭蓋骨内にある髄液と呼ばれる液体がクッション代わりを果たしてくれるため、さして大きな問題とはなりませんが、強い衝撃の場合には、脳に対して回転加速度が加わって頭蓋骨と接触することで、結果的に神経伝達物質の過剰分泌を促し、記憶障害や意識障害、重症の場合では後遺症などを引き起こす可能性があります。
人の脳震盪の場合
人が脳震盪を引き起こしてしまいやすい状況では、例えばラグビーやアメリカンフットボールといった身体に強い衝撃が加わる競技は元より、音楽ライブなどで頭を上下に揺さぶるヘッドバンキングや直接・間接を問わず頭に強い衝撃が加わる行為が脳震盪を引き起こす引き金となる可能性があります。
また、その症状が一度だけでなく二度・三度と繰り返された場合、脳震盪癖となる場合があるため、注意が必要です。
犬の脳震盪の場合
犬の脳震盪では基本的に人のような激しい運動ではなく、愛犬自身も予想だにしていなかった行動や外部からの強い衝撃が加わることで、脳震盪を引き起こしてしまう可能性があります。
中でも人が抱っこした拍子時の落下は、小型犬の立場からすると、なんとマンションの7~8階に相当する程の衝撃のようなので、十分な注意が必要です。
特に小型犬の中でもチワワは、頭蓋骨が十分に形成されないままペットショップなどに出回ることも多く、この状態で頭に強い衝撃が加わると、重大な状況に発展してしまう危険性が高い犬種とされています。
犬は頭を振るだけでは脳震盪は起こさない?
脳震盪の基本的な定義が分かったところで、ここで一つ疑問が浮かんだ方もいたのではないでしょうか?
その疑問というのは、犬が良くする頭を勢いよく振る行動です。
皆さんも一度くらいは愛犬と遊ぶ過程で、愛犬が興奮のあまり勢いよく頭を振る姿や違和感の払拭でブルブルと全身を振る姿に、「これって脳震盪とかにならない?」と、心配した経験はありませんか?
それもそのはず。
基本的に人で起こし得る脳震盪の度合いは、人にもよるものの少し頭を振っただけでもフラフラしたり、ボーっとしたりしてしまうものです。それなのに、犬の場合では「これでもか!」と言うほど頭を振っても振り終わった瞬間には“ケロッ”としているのですから、その後の愛犬の経過が気になっても不思議ではありません。
ただ犬の場合は、椎骨の中で唯一椎間板のない第一頸椎(環椎)と第二頸椎(軸椎)からなる環軸関節と軸椎の歯突起及び筋肉、種々の強靭な靱帯によって頭部の回旋運動を安定的に担っています。
▽『犬の第一頸椎(環椎)第二頸椎(軸椎)の作り』
つまりどういうことかと言うと、犬の頭は自らの意思で左右に頭を振る随意運動であれば、人のヘッドバンキングくらいの勢いで頭を振っていても、脳へのダメージは、ほとんど及ばない作りになっているということです。
そのため、遊びの興奮による頭の回旋や全身の身震いで起こす左右の頭を振る程度の振動では、さして脳に影響が及ばないので問題はありません。
しかし、この状態が例えば外部によるもの(落下を伴う衝撃など)であった時には、いくら人よりも分厚い頭蓋骨を持つ犬であったとしても、脳震盪を引き起こす可能性は十分あるため、注意しましょう。
犬が脳震盪を起こしてしまった時の症状とは?
それでは、もしも犬が脳震盪を起こしてしまった時には、どのような症状が考えられるのでしょうか?
脳震盪で見られる主な症状を以下で確認してみましょう。
▼【犬が脳震盪を起こしてしまった時の主な症状】
・フラフラする
・嘔吐する
・よだれを垂らす
・硬直する
・麻痺する
・失神する
犬の脳震盪による症状には、強い衝撃によることで起こった脳障害のため、上記以外にも何かしら症状が見受けられる場合があります。
また犬の場合であっても、落下した瞬間は足元のふらつき程度で済んで、その後は何事もなかったかのような振る舞いを愛犬が見せる場合があります。
けれど脳に衝撃を与えてしまった時には、その後こそ慎重に数日から数週間は注意深く観察することが大切です。
特に愛犬に痙攣の症状が見られた時には、最も危険な状態だと言われているため何の症状も出てないからといって楽観視しないよう注意しましょう。
犬が脳震盪を起こした時の治療方法
大切な愛犬が万が一にも高所から落下し、強い衝撃を受けてしまった時には、一にも二にも動物病院で診察してもらうよう心掛けてください。
動物病院では、脳に異常がないかを調べるためのCTやMRIなどで、脳の状態を調べる検査が行われる場合があります。
また神経を圧迫してしまう脳の腫れや炎症を引かせる場合には、ステロイド剤や抗生物質を点滴管理の元、投与することが主な治療法となります。
もし幸いにも何の異常も見られなかったとしても、当面の間は様子を見て安静にすることが大切です。
実は筆者の初代柴犬は、16歳頃に少し目を離した瞬間に高い場所を背中から落下したことがあります。
筆者はその時その場に居合わせていませんでしたが、愛犬の傍にいた母は慌ててすぐに事情を話してきたため、早急に動物病院へ。
年齢が年齢ということもあり、背中に対する骨折の可能性を考えつつ、脳震盪などもヒヤヒヤしながら診断を待っていたところ…、結果は…。
“異常なし”との診断が。
しかし、それでもやはり言われたのは、「問題がなくても数日間は安静にして様子を見てください。そしてもしも異変が見られた時にはすぐに来てください」と言われました。
こちらの不注意で愛犬に痛い思いをさせてしまった出来事でしたが、四足歩行の犬がどこかから思いがけず落下するという状況は、獣医師さんからしてみても緊急を要する事態だということが分かります。
そのため、愛犬が誤って高いところから落下してしまった際には、早急に対処するよう心掛けましょう。
脳震盪は容体急変や後遺症に要注意!
脳震盪は人であれ犬であれ、何も異変がないから問題ない訳ではないことも、心得ておくことが大切です。
一般的に、身体に衝撃が及ぶ競技や高所からの落下や交通事故など様々な理由で起こった脳震盪は、その日のうちに何らか症状が表れずとも、その後容体が急変して重篤な症状を引き起こしてしまう場合は少なくありません。
特に高いところから落ちてしまったにも関わらず、そのあとすぐに“ケロッ”として元気に走り回っていた場合、つい飼い主心理からしたら安心してしまいますが、そういう時ほど慎重に様子を見て、いざという時のために早急な対応が出来るよう心掛けましょう。
脳は強い衝撃によってダメージを負うと、損傷の程度にもよりますが、その修復が完全に完了するまでに、大体人の場合では6か月~1年程度かかると言われています。
何の変化も見られない状態が愛犬に見られた場合であっても、外からでは分からない脳の障害を甘く見ないよう注意しましょう。
万が一対処が遅れたことによって後遺症が残ってしまった際には、例えば四肢に麻痺が残ってしまったり、脳への障害が残ってしまったり、失明してしまったり、体のバランスに異常が出てしまったりと、人で見られるような症状が犬でも見られてしまう可能性があります。
そのため、例え症状が軽くても、そして仮になかったとしても動物病院を受診するよう心掛けてください。
まとめ
いかがでしたか?
犬の脳震盪を起こさないためには、人の脳震盪とは違って、特に高い場所からの落下がないようにすることが先決です。
人の抱っこはもちろんのこと、飼い主さんのベッドの上からの落下やソファの上からの落下、また、フローリングで滑ったことによる転倒などは、落下防止の柵や昇り降りに便利なクッションステップ、そしてジョイントマットの設置や絨毯の設置などで事前に対策することで、愛犬が落下する危険性はグンと減らすことが出来ます。
そのため、まずは身近なところから、こうした脳震盪への対策を心掛けてあげてくださいね。
<参考書籍>
楽しい解剖学 ぼくとチョビの体のちがい 第2版
イヌの特性 イヌ品種特性の理解
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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