歯石は飼い主さんが気づきやすいお口のトラブルですね。
「なんとか自宅で愛犬の歯石を取りたい」とネットで色々と歯石取りグッズを買った経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
しかし自宅での歯石取りは、愛犬が大怪我をする可能性があるだけでなく、より歯石がつきやすい歯になるリスクがあります。
今回は「自宅で歯石取りをおすすめしない5つの理由」や「歯石取りの目安」について解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
<目次>
自宅での歯石取りをおすすめしない5つの理由
犬の歯石取りには全身麻酔がつきものなので、自宅で歯石取りができればと考えている方も多いと思います。
ですが、自宅での歯石取りをおすすめしない理由が5つあります。
▼自宅での歯石取りをおすすめしない5つの理由
①大怪我につながりやすい
②愛犬が痛みや恐怖を感じやすい
③目に見えない場所にも歯石はある
④より歯石がつきやすい歯になる
⑤歯周病対策にならない
①大怪我につながりやすい
歯石取りグッズとしてよくスケーラー(先端が尖っている器具)や鉗子(組織を挟む器具ですが歯石を挟んで砕く方法が紹介されている)を目にしますね。
簡単に歯石が取れる気がしますが、実はこういった器具を歯に当てる力加減は専門で器具の訓練を受けていないと非常に難しく、犬の口腔内の知識がないと危険です。
実際に「日本小動物歯科研究会」からは歯石を取ろうとして鉗子で歯を折ってしまった事故が報告されています。
また舌の近くには太い血管や唾液腺があり、口の周りには目もあります。
少し手元が狂ったり犬が嫌がって動いたりするだけでも、刃先が刺さって大怪我をしてしまう可能性があります。
②愛犬が痛みや恐怖を感じやすい
歯石を取ろうとするとスケーラーの先端を歯の根元に当てて、力をかけて細かく動かすという作業が必要になります。
歯周病が進行すると歯の根元に炎症が起こります。
炎症を起こしている部分を何度もスケーラーで触られるので、犬は非常に痛いです。
人からするとちょっと歯石を取るくらいの感覚かもしれませんが、犬からすると理由もわからないまま見慣れない道具を炎症が起きている部分に当てられるので、強い恐怖と痛みを感じます。
③目に見えない場所にも歯石はある
歯石には2つ種類があります。
・歯茎より上についている「縁上歯石」
・歯茎より下についている「縁下歯石」
縁上歯石は目に見えるので発見しやすいですが、縁下歯石は歯茎の下に付着しているので、発見しにくいです。
縁下歯石を作り出す菌の中には歯周病菌も含まれます。
目に見える歯石が取れたとしても歯茎の下にも歯石は潜んでいて、歯周病が進行しているということがあるかもしれません。
④より歯石がつきやすい歯になる
歯石が剥がれた後の歯の表面はザラザラしています。
ザラザラなままだと歯石が再付着しやすくなるので、歯を磨く研磨作業が必要になります。
動物病院だと研磨ができますが、自宅だと研磨をすることができません。
そのため歯石が剥がれて見た目が綺麗になっていたとしても、歯の表面はザラザラで歯石が再付着しやすい歯になっています。
⑤歯周病対策にならない
歯石を除去する理由は歯周病対策であることが多いかと思います。
ですが、歯石は歯周病の直接の原因ではありません。
歯周病は歯周ポケットに潜む歯周病菌が原因なので、歯石を剥がして見た目が綺麗になったとしても、歯周ポケットがケアされていなければ歯周病になってしまいます。
愛犬の歯石取りはどこですればいいの?
自宅で愛犬の歯石取りをおすすめしない理由を5つご紹介しました。
では、愛犬に歯石が付着したらどこで歯石をとればよいのでしょうか。
動物病院の他にペットサロンなどでも歯石取りができると耳にしますね。
ですが結論から言うと、歯石取りは必ず動物病院で行うことをおすすめします。
▼動物病院で歯石をとるメリット
・歯石を取る前に歯の状態を検査できる
・麻酔をかけた処置ができる
・歯周ポケットもケアができる
・麻酔をかけるので犬の口の中を傷つけるリスクが減る
・犬に異変が起きたときにすぐに対処できる
動物病院での歯石取りは全身麻酔を使うので、麻酔事故が怖いという飼い主さんは多いと思います。
ですが麻酔をかけると眠っている間に処置が終わるので、痛みや恐怖を最小限に抑えることができます。
また犬が動かないので犬の口の中を傷つけるリスクも減り、歯周病の根本原因である歯周ポケットをケアしたり縁下歯石(歯茎の下の歯石)を取り除くこともできます。
「麻酔=怖い」と感じるかもしれませんが、麻酔をかけてきちんと処置ができることは犬側にも多くメリットがあります。
動物病院以外での歯石取りについて
ペットサロンなどで無麻酔での歯石取りを謳っているところもありますね。
愛犬の体のことを考えると無麻酔を選びたくなってしまいますが、麻酔をかけずに処置をすることでかえって危険が増すことがあります。
▼無麻酔で歯石をとるリスク
・犬が動く可能性があるので口の中を傷つけやすい
・処置の時間が長くなる
・犬が痛い思いをする
・犬にストレスがかかる
・犬が骨折をする可能性がある(歯周病が進行すると顎の骨がもろくなります)
・嫌な経験をするので犬が口を触らせなくなる
無麻酔での歯石取りは歯周ポケットのケアや歯石を取った後の研磨作業はできないので、歯周病対策としての効果は不十分の可能性があります。
また歯垢や歯石取りは診療行為にあたるので、獣医師法(第17条)で獣医師以外が行うことはできないと定められています。
日本小動物歯科研究会からは口腔ケアが許されていないサロンでの施術事故が報告されているので、歯石取りをする場所選びは十分注意してください。
▼「日本小動物歯科研究会」の無麻酔歯石取りに関する見解
▼こちらの記事もおすすめです
無麻酔歯石取りは犬の体に優しい?高齢でも大丈夫?デメリットはないの?
>https://www.inutome.jp/c/column_7-50-34917.html
「歯石取りの目安」どのくらい歯石がついたら取るべき?
今までの内容で「自宅での歯石取りのデメリット」や「歯石取りをする場所選びは重要」ということがおわかりいただけたと思います。
ではどのくらい愛犬の歯に歯石がついたら除去を考えればいいのでしょうか。
歯石取りの目安は歯石の量だけではなく「歯茎に歯肉炎が起きているか」を基準に行います。
▼「歯肉炎」ってなんですか?
歯の周囲の歯茎が腫れている状態。
▼「歯肉炎」と「歯周病」の違いは?
歯肉炎が進行すると歯を支える骨まで影響を及ぼします。
この状態を歯周炎(歯周病)といいます。
歯肉炎は軽度の炎症ですが、進行すると歯周病を発症します。
そのため歯肉炎のうちに早めに処置をしてあげることが大切です。
もちろん歯石は細菌を増殖させる温床になるので、できる限りない方が良いです。
ただ歯石が少なくても歯肉炎が起きていれば処置が必要になりますし、歯石が多くても歯肉炎が起きていないようであれば様子見になることもあります。
▼軽度の歯肉炎
画像のわんちゃんも歯石は少ないですが、歯の根元を見るとやや赤みが出でおり、軽度の炎症が起きていることがわかります。
歯石だけではなく歯肉に赤みが出ているかもチェックしましょう。
「自宅で歯石は取れないの?」飼い主さんができるデンタルケアは?
では、飼い主さんが愛犬のために自宅でできるデンタルケアは何があるでしょうか。
▼家庭でのデンタルケア
・歯磨きシートで歯を磨く
・歯ブラシで歯を磨く
・抗菌効果のあるデンタルジェルを使用する
・抗菌効果のあるデンタルスプレーを使用する
・口腔内の細菌バランスを整えるサプリメントを使用する
歯垢は家庭内のデンタルケアで落とすことができますが、歯石は家庭内のデンタルケアで落とすことはできません。
無理に歯石を落とそうとすると愛犬が嫌な思いをするので、二度と口を触らせてくれなくなるかもしれません。
口に触れないとますます口内環境は悪化するので、歯石の除去は動物病院にお任せして、家庭内では歯磨きなどのデンタルケアを頑張りましょう。
▼こちらの記事もおすすめです
「愛犬が歯磨きを嫌がる」失敗の要因とうまく歯を磨くコツをご紹介
>https://www.inutome.jp/c/column_7-236-49866.html
家庭内での歯石取りは大きな事故に発展するリスクがあります。
安易にグッズを使用すると思わぬ大怪我をさせる可能性もあるので、十分注意が必要ですね。
<参考URL>
無麻酔での歯垢・歯石除去による併発症を考える
>https://www.sadsj.jp/download/k_fujita_mvm_191_21_32_2020.pdf
無麻酔下での歯石除去の問題点
>https://www.sadsj.jp/download/scaling_una2012.9.pdf
<画像元>
Unsplash
写真AC
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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