昔から生食文化が根付く日本では、お刺身やお寿司を好んで食べる人は多いことでしょう。
また、手作り食が盛んになり始めた昨今では、犬に対しての生魚を与える場面も多くなったことと思います。
けれど、そんな時に気を付けたいのが【アニサキス】への感染です。
今回は、アニサキスの基礎知識からアニサキス症の主な原因や症状、予防法、そして筆者が実際に衝撃を受けたまさかの食材に存在したアニサキスの姿を解説します。
<目次>
そもそもアニサキスってどんなもの?
アニサキスとは、回虫目アニサキス科アニサキス属に属する線虫の一種で、人から犬、犬から人への感染はないものの、近年では人と動物の共通感染症として知られるようになった感染症の一つです。
一般的にアニサキスの生活環は、まずは終宿主となるクジラやイルカなどの海産哺乳動物の糞便中に含まれる虫卵から始まります。
その後、孵化した幼虫がオキアミや小型の魚類、イカ類に摂取され、それら魚介類をサケやサバといった中・大型の魚類のエサ、または小型の魚類、イカ類の時点で中間宿主、待機宿主として生存するところまでが、基本的なアニサキスの生活環になります。
▼『アニサキスの生活環・経路図』
そして、そういった状況の中から仮にアニサキスに感染した魚介類を私たち人が刺身やお寿司として食べてしまうと、感染する可能性が出てきてしまうという構図となります。
アニサキスの幼虫(アニサキス幼虫)は、長さ2~3cm程、幅0.5mm~1mmくらいの細長いそうめん状で、主に、アジ、サバ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生していると言われています。
またアニサキス幼虫は、寄生している魚介類が死亡し、時間が経過した後は、内臓から筋肉(身の部分)に移動することも知られています。
そのため、生魚を飼い主さんはもちろんですが、愛犬もまた好んで食べるような場合には、単純に内臓を取り除けばよいという話ではなく、しっかりと可食部分の確認を怠らないことが大切になってくるでしょう。
犬にも発症するアニサキス症の原因
一般的に犬にも発症する危険性があるアニサキス症の主な原因とは、前述の通り、アジ、サバ、サンマ、カツオ、イワシ、サケと、人に注意が必要な魚類と、ほぼ同じものが対象です。
けれど、この中でも特に犬のトッピングの食材としても、手作り食としても重宝する魚類と言えば、生サケではないでしょうか?
基本的に生サケは、毎年多くのご家庭で食卓に並ぶことが多く、犬もまた喜んで匂いを嗅ぎに来る魚類です。
またサケは、サバやカツオ以上に調理のレパートリーなどが豊富なため、日頃の買い物でも購入する頻度が高い人も多くいることでしょう。
けれどこれは、裏を返せば活用したい人が少なくないことを証明していると言っても過言ではありません。
▽『アニサキス食中毒の主な原因になる魚(2015年統計)』
しかし、上記で示す2015(平成27)年に取られた円グラフ統計データを確認すると、この時点で、最もアニサキス症の症例が出やすい結果としては、その他を除く魚類に一番多い順からサバ、サンマ、サケと続いています。
統計データこそ数年前のものではありますが、アニサキス症の観点から見た時には、こういうデータで示された統計は、人はおろか、犬に至っても安易に生のままのサケを食べることへの注意喚起がされていると考えて相違ないでしょう。
そのため、例え手作り食で愛犬の食事を作ってあげる場合であったとしても、出来る限り生魚で愛犬に食事を与えるのは避けるようにし、生魚を使用する際には、念のためアニサキスの有無を事前に確認しておくよう心掛けておきましょう。
人と犬のアニサキス症の主な症状とは?
それでは、犬がもしもアニサキスの寄生している魚類などを口にしたら、どのような症状が見られるのでしょうか?
人の場合と犬の場合で、その主な症状の違いを確認してみましょう。
人のアニサキス症の主な症状
人のアニサキス症で主に見られる症状には、一般的に以下のような症状が表れる場合が考えられます。
▼【人の主なアニサキス症の症状】
・激しい心窩(しんか)部痛
・下腹部痛
・悪心
・嘔吐や下痢
これら症状は、アニサキス症の大半を占める胃アニサキス症などでよく見られ、他にも腸粘膜に穿入(せんにゅう)する腸アニサキス症も同じような症状を呈します。
ただし、こうした症状ではなく、例えば体中に表れる蕁麻疹や血圧低下、呼吸困難、意識低下などの症状が表れた際には、それはアニサキスアレルギーによるアナフィラキシーショック(劇症型アニサキス症)の可能性があるため、状況判断は慎重に行うよう気を付けましょう。
犬のアニサキス症の主な症状
犬のアニサキス症の主な症状は、見られる可能性もあるようですが、現段階では犬固有の症状を確かめるのは乏しいと言われています。
けれど、アニサキスに関する研究文献の結果によれば、偶発的にでも胃の寄生例が認められている愛犬・愛猫が存在していることが分かっています。
そのため、仮に症状が表れるとするならば人同様、激しい消化器症状、あるいはアニサキスを原因としたアレルギー症状を呈する可能性は非常に高いと考えて良いでしょう。
衝撃!筆者が見つけた意外なアニサキスの場所
さて、これまでアニサキスの生活環や最もアニサキスが寄生しやすい魚類の種類、原因や症状などを解説してきましたが、ここでは少し、とても衝撃だった筆者の実体験をご紹介させてください。
というのもある日の朝食時、通常であれば魚類、特にマサバやサケといった生魚に寄生することの多いアニサキスが、意外なところから発見されたのです。それがこちらです。
▲意外な食材から発見された丸まった状態のアニサキスアップ画像
▲中央:アニサキス、右側:つまようじ
さて、一見イクラのようにも見える1枚目の写真の卵、これは実は明太子です。そして2枚目の写真は、丸まっていたアニサキスをつまようじで伸ばした時の写真です。
これら2枚の写真に写るアニサキスは、結果的に冷凍保存された商品が解凍されて店頭に並んでいたので、感染する恐れは全くありませんが、あまりにも意外過ぎる場所での発見となったため、この時は明太子の原物よりもアニサキス本体の撮影を優先してしまいました。
しかし、今回の件で分かって頂けるように、アニサキスはこうした意外な場所からの発見も十分にあり得る寄生虫です。
外食などでお刺身やお寿司を食べる時には、この時以上の危機感を忘れないよう、是非とも気を付けてください。
アニサキス症にならないための予防法
それでは、ここからはアニサキス症を引き起こさないための予防法を、いくつか以下で確認していきましょう。
▼【アニサキス症の主な予防方法】
- 60℃以上、1分以上の加熱調理をする
- -20℃、24時間以上で冷凍保存する
- 養殖魚の利用、摂食を心掛ける
以上が、主にアニサキス症を予防する方法となります。
アニサキスは、基本的には適切な加熱調理、または適切な冷凍保存によって処理を施せば、寄生される危険性はほぼありません。
また、養殖魚は基本的にペレットと呼ばれるドライ加工をした餌を与えられて育てられているため、アニサキス自体の生存の心配もなくなります。
そのため、愛犬に手作り食を検討する場合には、養殖で育てられたサーモンなどを活用してあげると良いでしょう。
ですが一方で人間の場合だと、外食先でお刺身やお寿司を食べるといった機会は、多いことと思います。
では、そうした時の応急処置方法は…?と言われれば、意外にも次のような方法が効果的とされているようです。
それは…、皆さんも一度はお世話になったことがあるかもしれない、正露丸(木オクレソート含有医薬品)を飲む方法です。
なかなかにわかには信じがたい事実ではありますが、大幸製薬株式会社(本社:大阪府吹田市、代表取締役社長:柴田 高)が製造販売する正露丸(木オクレソート含有医薬品)には、服用することで強い上腹部痛が直ちに消失、アニサキス症の症状が軽快したという結果が、2010年の時点で2例、2023年SNSの実態分析調査にて分かった56件の症例では、「効果があった」という結果が59%(33件)、「少し効果があった」が23%(13件)あったとされています。
残念ながら犬へのこの方法は、逆に正露丸に含まれる木オクレソート成分が中毒症状を引き起こしてしまうため応用できませんが、アニサキス症覚悟の上でも「どうしても生のお魚が好き!」という方にとっては、お守りとして持ち歩くのは一つの手かもしれません。
とはいえそれで緩和しない時には、迷わず病院で受診してもらうよう心掛けることは大切で、この方法はあくまで対処療法の一つだと覚えておきましょう。
まとめ
いかがでしたか?
アニサキス症は、いつ、どんな時に発症するか分からない病気です。
特に犬の手作り食で挙げられているレシピサイトやレシピ本の中には、時として『新鮮であれば生魚・生肉はそのままでもOK!』などと記載されているものがあったりします。
しかし、例えそのようなことが書かれていたとしても、基本的にはアニサキス症の予防を徹底するなら、加熱調理または冷凍保存、養殖魚は欠かさない方が安心です。
筆者のような事例が全くないとも限らないため、生魚を食べる際にはぜひとも、人も犬も充分チェックした上で食べるよう、心掛けてくださいね。
<参考サイト>
正露丸の内服によるアニサキス症治療例がドイツ医学雑誌で初めて報告 「木クレオソート含有医薬品(正露丸)が効果を示したアニサキス症の2症例」 医学雑誌“Hepato-Gastroenterology vol.58”に掲載|大幸製薬株式会社
>https://www.seirogan.co.jp/dl_news/file0127.pdf
International Journal of Research in Pharmac|国際薬学研究ジャーナル
>https://ijrpp.com/ijrpp/article/download/488/469/
─人と動物の共通感染症の最新情報(ⅩⅤ)─アニサキス症|杉山 広
>https://jvma-vet.jp/mag/07210/a3.pdf
アニサキス食中毒|杉山 広
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20190304bv1&fileId=210
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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