暖かい時期が近付くにつれ、動物病院の先生から「ノミ・マダニ対策をしましょう」と言われますよね。
しかし実際にノミやマダニが犬にどのような危険を及ぼすのかご存知ですか?
この記事では、ノミや通常のダニより危険なマダニの寄生によって発症してしまう病気やその症状、予防法をまとめました。
犬に寄生するマダニとは?
そもそも、犬に寄生するマダニとは、普通のダニとどう違うのでしょうか?
マダニとは、一般的にクモやサソリなどの蛛形綱(ちゅけいこう)と言われる8本足を持つ大型の節足動物のことを指します。
布団やカーペットといった家庭内に生息している[イエダニ]とは違って、堅い外皮に覆われ、主に河川敷や公園内の草むらに生息しています。
これらマダニには、12属720種以上の多くの種類が存在し、畜産・獣医学領域で最重要視されているのは、チマダニ属に分類されているフタトゲチマダニと言われている種類です。
犬にとって、ノミやダニに寄生されるということは、それだけで痒みの原因になったり、貧血を起こす原因になったりしますが、この貧血を起こす原因こそ、マダニの吸血が大きく関係している可能性が考えられます。
というのも、通常、ツメダニやヒョウヒダニ(チリダニ)と言われるダニ類の多くは、人の垢やフケ、食べこぼしなどを餌にし、実際に人や動物の吸血は行いません。
けれど、マダニに関しては、その餌の対象となるのは人や動物の血液です。
その上、吸血した時には蚊と同じように咬まれた箇所に対する痛みや痒みをあまり感じない成分を分泌するため、人はおろか、犬もきっと気付かないことでしょう。
▽『愛犬のマダニ寄生サイクル』
そしてマダニは、吸血方法として愛犬の真皮層(皮下組織より上の層)に血液の貯留タンクのようなものを形成し、そこから自然に自分が脱落するまで、血液を吸血し続ける大変恐ろしい血管外吸血型という方法を取ります。
▽『犬の皮膚構造イメージ』
▽『マダニによる吸血の仕組み』
△成ダニ吸血部位の模式図(A)及び未吸血時から飽血時(吸血後)までの固体変化(B)
引用元:www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/2/50_119/_pdf
また、マダニは吸血を行う前には事前に自分の口器と感染対象者の皮膚とを密着させるため、セメント状になる成分で自身を固定します。
上記はあくまでイメージではあるものの、このイメージから見ても想像が付くように、マダニは破壊させた皮下組織の上にある真皮から、溜まった血液を長時間に及んで吸血します。
さらに、セメント状になる成分で固められた口器を無理やり引っ張って取ってしまうと、その口器だけ残って後々炎症などが起こる、負の連鎖が成り立ってしまう可能性があります。
マダニの活発化するシーズンは、丁度春から秋にかけてです。
そのため、動物病院で勧められるノミ・ダニ対策は、決して怠らないよう心掛けましょう。
マダニに咬まれた時に気を付けたい病気って?
それでは、もし愛犬がマダニに咬まれてしまった時には、どのような病気の発症が考えられるのでしょうか?
マダニの感染は人にも関係してくるため、ここでは犬には不顕性であっても人では発症する病気についても合わせてご紹介します。
以下で危険性のある病気及び、その症状について、一つずつ確認していきましょう。
重症性血小板減少症候群(SFTS)
重症性血小板減少症候群(SFTS)とは、フレボウイルス属SFTSウイルスというウイルスによって、引き起こされてしまう病気です。
中国においては、フタトゲチマダニやオウシマダニといったマダニからそのウイルスが発見されました。
また2016年には、重症性血小板減少症候群の病原体ウイルス(SFTSV)が存在する恐れがある地域で、このウイルスを保菌する犬が5匹確認されています。
結果的に、この時確認された対象犬の全ては不顕性感染だったようですが、このようにいつの間にかウイルスを保菌している危険性もあるため、油断はしないよう注意することが大切です。
▽『犬の場合の症状』
・原因不明の発熱や嘔吐や下痢などの消化器症状、血小板減少、白血球減少などが認められます。
※重症化の場合には最悪死亡してしまう可能性あり
▽『人の場合の症状』
・犬同様、原因不明の発熱や嘔吐や下痢などの消化器症状、血小板減少、白血球減少などが認められます。
※重症化の場合には最悪死亡してしまう可能性あり
野兎(やと)病
野兎(やと)病とは、野兎病菌によって引き起こされてしまう病気です。
世界的には、野ウサギなどをはじめとする哺乳類や鳥類に保菌記録があり、ウサギ・げっ歯類が最も感受性が高いことで知られています。
しかし自然界では、ウサギやげっ歯類の間でダニも感染環を形成しているため、マダニによる媒介での発症に注意しましょう。
▽『犬の場合の症状』
・発熱や食欲不振、リンパ節の腫脹、敗血症などが認められます。
※重症化の場合には最悪死亡してしまう可能性あり
▽『人の場合の症状』
・突然の悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐などを呈し、5%の割合で敗血症が認められます。
バベシア症
バベシア症とは、マダニが媒介するバベシアと呼ばれる原虫が犬の体内に入り、赤血球の中で増殖した結果、溶血性貧血を起こす病気です。
▽『犬の場合の症状』
・脾腫、溶血性貧血、血小板減少、発熱、黄疸、血色素尿などが認められます。
※重症化の場合には最悪死亡してしまう可能性あり
▽人の場合の症状
・発熱や頭痛、筋肉・関節の痛み、疲労感などが認められます。
※重症化の場合には赤血球の破壊により貧血や黄疸が見られる場合あり
ライム病
ライム病とは、野生の鳥類や齧歯類、鹿などが保菌しているスピロヘータという細菌が、マダニを介して愛犬や人に感染、発症してしまう病気です。
▽『犬の場合の症状』
・多発性関節炎や発熱、元気消失、体重減少などが認められます。
※成犬の場合は症状が現れない場合あり
▽『人の場合の症状』
・感染初期:インフルエンザのような症状(筋肉痛や関節痛、頭痛など)が認められます。
・感染中期:皮膚症状や神経症状、心疾患など多様に認められます。
・感染後期:2019年3月時点での主な症例はなし
日本紅斑熱
日本紅斑熱とは、日本紅斑熱リケッチアという細菌が、マダニを媒介し犬に感染することで発症してしまう病気です。
▽『犬の場合の症状』
・痒みのない発疹や発熱など(放っておくと高熱、倒れる危険あり)が認められます。
▽『人の場合の症状』
・2日~10日の潜伏後、頭痛、高熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを伴う症状が認められます。
※重症化するとけいれん、意識障害を起こす
Q熱
Q熱とは、コクシエラ・ブルネティと言われる細菌の一種がマダニを介して発症する病気です。
コクシエラ・ブルネティは犬、猫、家畜(特に牛や羊)、野鳥については不顕性感染ですが、人の場合は愛犬へのキスなどの愛情表現で感染してしまう可能性があります。
▽『犬の場合の症状』
・微熱または不顕性感染のため、無症状
※ただし、母犬の場合は乳汁に30日間、尿中に70日間本病原体を排出
▽『人の場合の症状』
・発症した場合、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛など、インフルエンザのような症状が認められます。
・重症化した場合、気管支炎、肺炎、肝炎、髄膜炎、腎障害などが認められます。
※ただし通常は不顕性感染のため、無症状
愛犬をマダニに咬まれないようにするためには?
一般的に、愛犬をマダニの脅威から守ってあげるためには、何を置いても公園内や遊歩道、河川敷などに生えている草むらを自由に歩かせないようにすることが一番の予防法となります。
ただ、そうは言っても公園があれば、喜んで草むらを駆け回りたいと思う愛犬も多いことでしょう。
マダニは主に、愛犬の眼の縁や耳の付け根、頬、肩、足先など、皮膚の比較的薄いところに好んで寄生する傾向があります。
そのため、愛犬が目一杯草むらの中で遊んだ後に飼い主さんの元へと戻ってきた時には、これらの部分を重点的にチェックしてあげましょう。
そしてその結果、マダニを見つけた場合には、必ず動物病院で取り除いてもらうようにしてください。
例え仮に愛犬の体からマダニを発見したとしても、間違っても慌てて取って潰そうとは考えないでください。
マダニは無理に引っ張ってしまうと、人でも犬でも顎の部分だけ皮膚に残って、後に皮膚炎などの炎症を起こしてしまったり、病原体がそのまま体内に入ってしまったりすることがあります。
筆者は幼い頃、初代柴犬に付いた小豆大のマダニをマダニと知らず、無理に引っ張って潰したことがあります。
ただ、その時は運よく愛犬がその後に皮膚炎などを起こさず、これといって他の症状も見られなかったため、問題ありませんでしたが、後になってマダニは引っ張っちゃいけない事を知った時には、ものすごく反省しました…。
必ずしもすべてのマダニが、上記でご紹介したような病原菌を媒介しているわけではありませんが、万が一愛犬がマダニに咬まれてしまった時には、筆者のようなことはせず、落ち着いて、動物病院で取り除いてもらってください。
まとめ
いかがでしたか?
マダニの寄生というのは、犬だけでなく、人においても注意が必要な感染症の一つです。
愛犬がどうしても草むらに行きたがる時には、洋服を着せてあげたり、洋服が苦手であれば、帰宅後は必ずブラッシングをしてあげたり、また、時と場合によっては散歩ルートを変えるなどの工夫をして、ダニの感染がないように、気に掛けてあげてくださいね。
<参考書籍>
最新版 愛犬の病気百科
もっともくわしい イヌの病気百科
<参考サイト>
マダニの生存戦略と病原体伝播
>https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/50/2/50_119/_pdf
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)をはじめとするマダニ媒介性感染症の現状
>www.jstage.jst.go.jp/article/tits/21/3/21_3_67/_pdf/-char/ja
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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