犬の歯みがきケアは、今や家族として迎えられるようになった犬にとって、必要最低限気を付けておきたいケアの一つだと思います。
また、歯みがきをしないことで起こり得るリスクも、今では数多くの情報媒体や文献でご存知の飼い主さんは多いことでしょう。
では、犬種の違いでもその重要度が異なることをご存知ですか?
今回は、犬種による違いで見る歯みがきの重要度や口腔ケア別効果、歯みがきを継続する秘訣などを解説します。
<目次>
犬種によって犬の歯の数と大きさに違いはない?
犬という動物はその種類によって、体格や骨格の作りの差など、様々な特徴の違いを備えていますが、歯の数や大きさの違いはそうではありません。
犬の歯の数は基本的に大型犬であれ、小型犬であれ大きな違いはなく、乳歯の時には総本数28本、永久歯の時には総本数42本が、犬の歯の本数として知られています。
では、大きさに対する違いは?というと、こちらについても大きな違いはありません。違いがあるとすれば、それは犬種の上顎骨や下顎骨に対する幅の違いくらいです。
ただ、この骨格の違いは、犬種の違いによって発生する歯みがきの重要度に深く関わってきます。
犬は元々狼を祖先としているため、肉を千切ったり骨を噛んだりすることで、口内に食べカスが溜まりづらい構造を成り立たせていました。
しかし、室内飼養が主流となり、愛犬たちの食べるものもドッグフードや柔らかいものに変化していってからは、口腔関連の病気はごく身近なものとなり、飼い主さんが愛犬に行う歯みがきの重要性も問われるように…。
犬の歯みがきをきちんと行うということは、まずは犬の歯の本数と大きさについて違いがないこと、それに加えて犬種の違いによる歯みがきの重要度の違いに関しても知っておくことが大切です。
また犬の歯の本数は、人の歯の総本数28本~32本よりもずっと多い42本全てをケアしていく必要性も生じてきます。
そのため、犬の歯みがきを開始する時には、犬種によって違ってくる歯みがきの重要度を覚えることから知っていきましょう。
続いては、そんな犬種による歯みがきの重要度をご紹介します。
犬種によってこんなに違う!歯みがきの重要度
まず大前提として、現代の犬にとって歯みがきケアというケアは、基本的に全犬種に必要なものだということを覚えておきましょう。
その上で、ここでは犬種によって違ってくる歯みがきケアの重要度をご紹介します。
そもそも犬の歯みがきを行う上で、どの歯に、どれだけの歯垢が付きやすいかと言えば、犬歯(一番長く鋭い歯)から数えて4番目にある第四前臼歯と上下の第一・第二後臼歯の表面と言われています。
▽『一般的な犬の歯式』
引用元:楽しい解剖学|ぼくとチョビの体のちがい|第2版
しかし上記でも述べましたが、この犬の骨格というのは、犬種によって違いが生じます。
特に小型犬は下顎骨の作りが狭く、歯が密集している子が多いため、歯みがき自体が難しい傾向にあり、また、その結果歯垢が溜まりやすく、歯の病気に罹りやすい子が多いです。
▽主に口腔関連の病気に罹りやすい犬種
上記は、アニコム損保ホールディングスにおける歯周病での犬種別請求割合を表したデータとなりますが、このデータを見ても分かる通り、請求割合で上位を占めているのは、ほとんどが小型犬種で、加えて長頭犬種の割合も高いというのがお分かりいただけるかと思います。
また、これら犬種に加え、短頭犬種も小型犬種同様、歯が密集した作りとなっているため気をつけましょう。
犬の歯みがきは、多くの飼い主さんが実践し、けれど挫折することも多いケアの一つです。中には、頑として歯みがきに拒否反応を示すワンちゃんも相当数居ることでしょう。
しかし歯みがきを全くしない場合、そのリスク要因には歯周病だけでなく、歯槽膿漏や糖尿病の悪化、腎臓や肝臓といった様々な臓器に悪影響を及ぼす結果となり得ます。
小型犬種や長頭犬種、短頭犬種について言えば、口腔関連の病気のリスクが高いことも鑑み、完璧でなくとも継続することを重視し、少しずつでも歯みがきしてあげるよう心掛けておいてください。
▼【合わせて読みたい!こちらの記事もオススメです】
犬は歯みがきで寿命が延びる!?歯周病の危険性や歯みがきに慣らす方法・口腔ケア時の注意点
>https://www.inutome.jp/c/column_7-153-44083.html
犬の歯みがき方法の研究で得た効果的なケアとは?
それでは、実際に愛犬へのデンタルケアを行うにあたって、どのようにしたら一番歯みがきの効果を享受できるのでしょうか?
犬の口腔内衛生維持のために行われた研究*で試された方法を基に、内容を確認していきましょう。
(※なお、この研究の対象犬は、前提として下記図、1~7歳までの口腔異常が認められない犬を対象としています。)
▽『研究で選ばれた対象犬一覧』
また、この研究では事前に犬の歯牙から細菌検査材料(犬の口腔内常在菌)となる採取を行った上で、歯みがき前と後の増減を表しています。
それでは詳しい内容及び結果を、それぞれ見ていきましょう。
歯ブラシ・水(直接歯みがき法)
この方法は、飼い主さんご自身が直接愛犬に対して、犬用の歯ブラシを用い、水に浸した上で通常の歯みがきを行った方法です。
この方法で菌の増減を計測したところ、以下のような結果が示されました。
歯ブラシと水のみで愛犬の歯を磨いた場合、対象犬全てにおいて、平均93.9%の割合で、細菌検査材料の減菌が認められました。
歯ブラシ・歯みがきペースト(直接歯みがき法)
次に行われた方法は、犬用の歯ブラシを用いるところは上記と同様ですが、歯みがきペースト(歯みがき粉)を先端5mm付けた場合の方法です。
この場合の方法で菌の増減を計測したところ、以下のような結果が示されています。
歯みがき・歯ブラシペーストの方法を用いた場合、水のみの場合と同様、減菌率はとても高い効果が得られ、その平均はなんと97.8%も得られた結果となりました。
歯みがきシート(直接歯みがき法)
3つ目に行われた方法では、緑茶ポリフェノールが配合された市販の歯みがきシートによる方法です。
直接犬の歯牙表面を磨く方法で菌の増減を計測したところ、以下のような効果が示されました。
歯みがきシートでの方法で直接犬の歯を磨くことにおいても、全体の97.5%の犬で減菌が確認されているのが分かります。
歯みがきジェル(直接歯みがき法)
4つ目の方法は、犬用の歯みがきブラシを用い、その上で歯みがきジェルを1滴垂らした状態で歯みがきをする方法です。
この場合の方法で菌の増減を計測したところ、以下のような結果となりました。
歯みがきジェルでの方法では、歯みがきペーストと近しい結果になるかと思いきや、意外にも全体の減菌率は平均で75.7%に留まりました。
歯ブラシビスケット(間接歯みがき法)
この方法は、直接犬の歯みがきを苦手とする飼い主さんや歯みがき自体を嫌がるワンちゃんにはとても嬉しい方法です。
この経口投与方法によって菌の増減を計測したところ、以下のような結果となりました。
歯ブラシビスケットを用いた場合、愛犬は喜ぶかもしれませんが、減菌率の割合は、やはり経口投与や間接的な方法のためか、対象犬のうち3匹は菌が増加する結果となりました。
歯みがきガム/連続投与(間接歯みがき法)
最後は、歯みがきガムをなるべく一か所に偏らず与えた方法と、2週間連続で朝夕の給餌直後にガムを与えた方法です。
ガムを与える方法についても、犬にとっては嫌な歯みがきから免れることができるためストレスの軽減には役立ちますが、その結果として得られた菌の増減は以下の通りです。
歯みがきガムの投与及び連続投与を用いた場合、これだけではどちらかというと、菌が増加する結果となってしまいました。
こうして比較してみるとその違いが顕著に表れますが、これだけでも犬の歯みがきは人同様、やはり直接的に“磨く”という行動が一番効果的な方法だということがお分かりいただけたかと思います。
犬の歯みがきを継続できないと感じてしまったら…
さて、ここまで犬種によって歯みがきに対する重要性や方法の違いで得られる効果などを解説してきました。
ただ、犬は元から口周りを触られることに抵抗を示す動物です。
どんなに懸命に歯みがきを継続したいと飼い主さんご自身が考えていても、愛犬の拒否反応が酷ければ、なかなか思う通りには出来ないことでしょう。
では、そんな時は放置するしかないのでしょうか?
いいえ。そんなことはありません。
犬の歯みがきというのは、人の歯みがきとは違って基本的に上手くはいかないものだと思ってください。
筆者も現在3代目の柴犬には、毎食後必ず歯みがきペーストを付けた歯みがきケアを欠かさず行っておりますが、数十秒間ジッとしている時もあれば、数秒で「もうイヤ!」とそっぽを向いてしまう時もあります。
しかし、それならそれで良いのです。
基本的にそういった場合には、すぐに歯ブラシでの歯みがきを中断して、代わりに歯みがきガムや歯みがきビスケットなどを与えてあげると、きっとそれは嫌がらずに食べてくれます。我が家も普通の歯みがきと歯みがきガムの併用です。(笑)
要するに、犬にとって歯みがきする上で重要なのは、短時間でも、完璧でなくても良いから、毎日のケアを怠らない事。
そうすることで、愛犬に過度なストレスを掛けず、且つ歯周病や歯槽膿漏などの、結果的に全身に悪影響が及んでしまう病気のリスクを減らせます。
愛犬の歯みがきに臨む際には、こうした気持ちでぜひ臨んでみてくださいね。
<参考書籍>
楽しい解剖学 ぼくとチョビの体のちがい 第2版
<参考サイト>
イヌの口腔内衛生維持のための効果的な歯みがき方法の研究
>https://tust.repo.nii.ac.jp/record/73/files/v8pp113-119.pdf
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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