呼吸停止や心停止が起こった際に用いられる【心肺蘇生法】は、いざという時のために役立つ方法ですが、実はその方法は犬にも役立てられるってご存知ですか?
獣医療においても、ようやくペットに向けた心肺蘇生ガイドラインが策定された昨今。
今回は、いざという時に知っておきたい、犬にも役立つ心肺蘇生法(心臓マッサージ・人工呼吸)をご紹介します。
策定されたペット向け心肺蘇生ガイドラインとは?
2012(平成24)年に策定されたペット向け心肺蘇生ガイドラインによれば、無反応、または無呼吸の場合には直ちに心肺蘇生(CPR)を実施するよう策定されました。
つまり、『犬に呼びかけても反応がなく、かつ呼吸も確認できない時には、心拍のあるなしに関わらず心肺蘇生法を実施する事。』となったと考えられます。
それまでのペットに向けた心肺蘇生法の原則としては、まずはそのペットのバイタルサイン(生命兆候)を確認した後、呼吸については自発呼吸をしている場合には気道の確保や酸素吸入をして、心肺機能については、明らかに心停止した時点で心肺蘇生に移るというのが基本だったものが、今では上記の画像のように、無反応や心停止した時点で、一時救命処置、二次救命処置を施し、そののちECG(心電図)を確認する作業に移るという順番に変わっています。
これが意味するところは、治療の手順で最重要視しなければならないのは、いかに素早く心停止を確認、心臓マッサージおよび人工呼吸によって犬の心拍再開を実現できるか、というところにかかっていると思います。
このガイドラインは、通常は獣医療に従事する獣医師さんに向けたガイドラインのため、一般の飼い主さんたちに向けられたものではないものの、個人的観点から申し上げれば、知っておいて損はないことではないかと感じています。
犬の心肺蘇生法:人工呼吸編
自発呼吸が見られない場合に施される人工呼吸は、呼吸が止まってから人工呼吸を開始するまでの時間が早ければ早いほど助かる見込みが高くなります。
もし、救助者が2人以上いる場合には、1人が人工呼吸を、もう1人が動物病院への連絡をして、迅速な対応が出来るようシミュレートしておきましょう。それでは、人工呼吸の手順を確認してみましょう。
人工呼吸の手順①:気道の確保と口腔内の確認
人工呼吸を施す際には、犬の体の右側を下にして心臓のある左側を上にした状態で、まずは気道の確保と口腔内の異物の有無を確認します。
気道の確保をしつつ、口を開けて犬の舌を少し前方に引っ張り出すのですが、もし引っ張り出すのが難しい場合には、舌に布を当てて掴みます。
また、気道を確保する際には、犬の首を持ち上げるのではなく、自分の顔を犬の口元に近付け、覗き込む形で気道の確保をすることがポイントです。
異物があったり吐いたものが詰まっていたりする場合は、事前に指で摘まんで取り除きましょう。
ただし、この異物を取り除くことが難しい場合には、心臓マッサージを行うよりもすぐにかかりつけの動物病院を受診してください。
人工呼吸の手順②:喉を真っすぐ伸ばした状態で犬の口を塞ぎ鼻から息を入れる
人工呼吸で大切なのは、空気の漏れを防ぎ、出来る限り空気を肺に行き渡らせることです。
そのため、人工呼吸を行う際には、しっかりと犬に空気を送り込めるように口周りを手の平で覆って鼻先に息を吹き込むように意識しましょう。
空気を送り込む時には、犬の胸部が膨らむように鼻からフーッと息を吹き込みます。この時、急速に息を吹き入れたり、強く息を吹き入れたりするとその空気が胃の方に入ってしまう危険性があるため、ゆっくりと1分間に10回~15回の割合で、1回につき1秒を目安に息を吹き込むように意識しましょう。
口を離した際、入れた空気が外に出て胸がしぼむのを確認できれば、しっかりと空気が肺胞に届いている証拠です。
人工呼吸の手順③:自発呼吸が戻るまで続ける
15秒に1回くらいの感覚で、心音の再確認をしながら上記の手順を繰り返し行いましょう。
目元がピクピクと動いて反応を見せれば、意識や自発呼吸が戻った一つのサインです。その時には、一旦人工呼吸をやめて様子を見てあげてください。
ただ、呼吸が戻ったからと言ってすぐに安心するのは禁物です。
呼吸が再開したとしても、最初は浅い可能性も考えられ、尚且つ再び呼吸が止まってしまうこともあるため、必ず傍で様子を見るように注意しましょう。
また、呼吸は戻ったけれど意識が10分を経過しても戻らない時には、動物病院に連絡をして、早急に適切な処置、対応をしてもらうよう心掛けてください。
犬の心肺蘇生法:心臓マッサージ編
前提として、心臓マッサージをご自身で行う際には、人工呼吸同様、動物病院への連絡を必ず行い、可能であれば指示を仰ぎながら行いましょう。
ほとんどの人は心臓マッサージの経験はないことと思いますが、少なくとも完璧でないにしても、心臓マッサージは一刻も早い開始によって蘇生の可能性を高めるため、脳内シミュレーションやぬいぐるみ相手のシミュレーションだけでもして、いざという時に落ち着いた行動が出来るように心掛けておきましょう。
心臓マッサージの手順①:右を下にして寝かせて胸部圧迫
愛犬の呼吸がない、胸への上下運動が見られない場合には直ちに右を下に寝かせた状態で胸部圧迫(心臓マッサージ)を行いましょう。
心臓は左前脚の付け根の後ろあたりに位置しています。
ただし、犬の場合だと、小型犬、中型犬、大型犬では心臓の場所に若干の違いが生じている可能性が考えられるため、事前にかかりつけの獣医さんに「うちの子の心臓ってどこら辺ですか?」というような質問をしておくと良いでしょう。
実際に心臓マッサージを行う際には、小型犬や猫の場合は胸を片手で掴み、揉むように指で1分間に100回~120回、犬の体の1/2~1/3または1cm~2cmくらい沈み込む形で、心臓マッサージをする人の肩、肘、手がほぼ一直線になるように、一点集中の真下に胸を押すようなイメージで、心臓に圧をかけましょう。
一方、中型~大型犬の場合は両手を重ね合わせて胸を圧迫します。中型~大型犬も小型犬の場合同様、1分間に100回~120回を目安に、1/2~1/3または3cm~7cmくらい体が沈み込むイメージを持ちましょう。
また、圧迫と圧迫の間は、しっかりと胸を広げなければならないため、胸に手がほとんど触れないようにイメージしながら行いましょう。
心臓マッサージの手順②:30回に2回人工呼吸(講習経験あり)
心臓マッサージを行った後には、可能であれば人工呼吸を行うことが最適とされています。とはいえ、実際に講習経験をしたことがない人の方が多いと思いますので、心臓マッサージを施しつつ、動物病院へと連絡しましょう。
一方で、もし講習経験があり、人工呼吸の経験もおありだという飼い主さんに関しては、30回に2回の人工呼吸をするか、または30秒に1回人工呼吸を実施するイメージを持ちましょう。
もし、救助者が2人以上いる場合には、心臓マッサージをする人と人工呼吸をする人に分かれて、出来る限り2分間連続で心臓マッサージを行い、心臓と脳への血流を促すように意識しましょう。
人工呼吸を行っている間に心臓マッサージを行ってしまうと、かえって余計な負担をかけてしまうため、行わないように注意してください。
また、救助者は約2分毎に役割を交代しながら、心肺蘇生を行ってください。これは、2分以上一人で行うには体力が続かないために、心臓マッサージが十分に行えなくなることを防ぐ必要があるためです。
心臓マッサージの手順③:約10~15分を目途に脈拍が戻るまで続ける(講習経験あり)
心肺蘇生の講習を受けた経験がある人は、上記の手順を1分経過した段階で、脈の確認と共に続けましょう。
脈は、左側の胸に耳を押し当てて拍動しているかどうか確認するのが一番簡単ですが、他にも、足首や内股、脇を触って脈を確認することが出来ます。
脈が戻っていれば、小型犬では60回~140回、中型~大型犬では60回~80回の拍動が正常とされているため、それを目安に1分間様子を見るようにしましょう。
心臓は、心臓が停止してから5分が経過すると脳死が起こってしまいます。また、心停止から10分経過すると蘇生確率は0%とも言われているほどです。
日々様々な動物と接している獣医さんであっても、心停止してすぐに心臓マッサージと人工呼吸を施し、その後犬が無事に回復する確率は、良くて5~6%と、とても狭き門だとされているため、心臓マッサージは約10~15分を目途に、それまでは諦めずに愛犬の回復を信じて続けることを意識してあげてください。
まとめ
いかがでしたか?
人対人の場合であれば、運転免許取得の講習で、応急救護講習というものがあるため、AEDの使い方や救護方法などをある程度学ぶと思いますが、犬の場合であっても、こうした心肺蘇生法の応用は効かせられます。
今では一般の飼い主さん向けに、いざという時に役立つ心肺蘇生法の検定試験【ペットのBLS検定】もあるので、ご興味のある方はぜひ調べてみてくださいね。
ペットのBLS検定
>https://petbls.jp/
<参考書籍>
決定版 犬と一緒に生き残る防災BOOK
<参考サイト>
最新の犬猫臨床例における心肺蘇生ガイドライン~Reassessment of Campaign on Veterinary Resuscitation RECOVER~
>http://ami-kinki.net/center/image/facility_information/kyuumeikyuukyuu1_201210.pdf
犬猫のエマージェンシー 実際のエマージェンシーに対する対処法
>https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/23/1/23_4/_pdf/-char/ja
札幌夜間動物病院|緊急の病気・サイン
>https://sapporo1299.net/whatyouneedtodo/#rtoc-2
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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