私たち人や犬は、『メンデルの遺伝法則』に則って、両親の良いところ、悪いところを遺伝子(DNA)という形で引き継ぎつつ生を受けることになりますが、その際気を付けておきたいのが、遺伝子病の有無です。
保護施設からワンちゃんや猫ちゃんの引き取りが徐々に増えてきた昨今。そもそも遺伝子病の判断基準とは?遺伝子病検査から見えてくる代表的な病気の怖さや検査の実施方法、費用についてご紹介します。
犬の遺伝子病が現れる判断基準って?
そもそも遺伝とは、交配によって両親から子へ形質や特徴を受け継ぐ現象のことを言います。
父親と母親から受け継いだ遺伝子は、父と母の遺伝情報の2つの型のうち、特徴が表れやすい場合を優性(A)、表れにくい場合を劣性(a)と呼び、これらは『メンデルの遺伝法則』を発見したグレゴリー・ヨハン・メンデルによって、「優劣の法則」と名づけられました。
そして、生物の持つ遺伝子の組み合わせは、それぞれAA(クリア)、Aa(キャリア)、aa(アフェクテッド)の3種類あり、この中で遺伝子病が問題視されているaa(アフェクテッド)にならないのは、変異を持っていない遺伝子(A)同士、または変異を持っていない遺伝子(A)と、変異を持つ遺伝子(a)の犬の交配のみです。
上記の結果、キャリアとして生まれた場合には、遺伝子病の発症可能性はほぼないものの、繁殖には注意が必要とされており、アフェクテッドの場合には、発症のリスクが高いため、繁殖には向いておらず、この組み合わせは絶対に避けるべきだとされています。
遺伝子病が現れる判断基準は、上記の図のように、この「優劣の法則」に則って、両親の劣性遺伝をどちらとも受け継ぎ、遺伝子変異を起こしてしまった子犬の場合に、発症する危険性が高いと言われていますが、遺伝子は複雑で、繁殖において遺伝子病の全てを排除することはとても難しいものです。
だからこそ、中には重篤になりやすい疾患があるこの遺伝子病に対抗するには、犬を迎える時にしっかりとした遺伝子病検査が行われている場所で、しっかりとした説明をしてくれるスタッフさんたちの元、私たち飼い主も気を引き締めて臨む必要性があります。
犬の遺伝子病検査ってどんなもの?
犬の遺伝子病検査とは、その犬の遺伝子の構成を分析し、DNAの突然変異の有無や病気のリスクを調査、解析する事を目的とした検査のことを言います。
犬には、遺伝が原因となる疾患が現在分かっているだけで数百にも上ると言われておりますが、この遺伝が関係して考えられる病気には、はっきりとその遺伝子が特定出来ているものもあるため、それらのうちのいくつかからは、DNA検査をすることも可能で、先祖犬がどんな犬だったのかという事にも役立てられます。
遺伝子病は、生まれた時に異常の認められる病気だけに限らず、犬種の体形や体質の特徴、生活環境など様々な要因が重なることで、生まれてからしばらく経った後に発症することも少なくありません。
近年は保護施設から保護犬や雑種から生まれた子犬を迎える人も少なくないと思いますが、こうした時に親犬がどんな犬だったのか不明のままだと、将来どれくらいの大きさまで成長するのか、交配する過程で遺伝的な疾患は存在するのかが分からない状態になってしまいます。
そんな時、こうしたDNA検査をすることで、ご自身の迎えた愛犬が、どんな犬種の血筋を受け継いでいるのかが分かれば、将来のリスクヘッジに繋がります。
遺伝子病は、代謝性疾患、血液疾患、皮膚疾患、眼疾患など実に様々な病気が認められているため、特にこれから犬の迎え先を保護施設から、と考えている飼い主さんに関しては、少しでも良いので予備知識を身に付けて、愛犬の将来のために備えられる飼い主さんを目指しましょう。
犬の代表的な遺伝子病とは?
それでは、犬の遺伝子病検査で行われる遺伝子病には、どんなものがあるのでしょうか?
代表的な遺伝子病の項目を以下でご紹介します。
フォン・ヴィレブランド病【VWD】(血液疾患)
ドーベルマン・ピンシャーやプードル、ジャーマン・シェパード、スコティッシュ・テリア、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどが発症しやすいと言われているフォン・ヴィレブランド病は、出血が起こりやすく、出血するとなかなか止血しません。
血液を固める因子に異常が生じているため、血液凝固が難しい遺伝子病で、手術時に問題になることが多い疾患です。
進行性網膜萎縮症【PRA】(眼疾患)
ミニチュア・ダックスフンドやミニチュア・シュナウザー、シー・ズー、ゴールデン・レトリバー、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ピンシャー、マルチーズなど、比較的小型犬種に多く発症しやすいと言われている進行性網膜萎縮症は、光を感知する網膜が委縮・変性してしまう疾患です。症状自体がゆっくりと進行するため、慣れた環境(家など)では視覚障害に気づきにくいですが、最終的には失明してしまいます。
変性性脊髄症【DM】(神経疾患)
ジャーマン・シェパードやウェルシュ・コーギー・ペンブローク、アイリッシュ・セッター、ウィペット、ジャック・ラッセル・テリア、ボーダー・コリー、ゴールデン・レトリバー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど、その他多数の犬種で発症しやすいと言われている変性性脊髄症は、その名の通り、脊髄が変性してしまい徐々に歩行が出来なくなってしまう遺伝子病です。
最初は痛みを伴わない後肢のふらつきが起こり、最終的には前肢にもふらつきが現れたのち、起立不全となります。
GM1ガングリオシドーシス(代謝性疾患)
柴犬や秋田犬、ジャーマン・シェパードなどの犬種で発症しやすいと言われているGM1ガングリオシドーシスは、乳糖の消化や複合糖質の代謝に関与するβ‐ガラクトシダーゼ酵素(GLB1遺伝子)の遺伝子変異によって、引き起こされる遺伝子病です。
代謝に働く酵素が作られなかったり、異常なものが作られたり、本来の機能を果たせないために老廃物が体内に蓄積し、その結果歩行異常や内臓障害などを起こします。現在に至るまで有効な治療法がないため、この遺伝子病に子犬がかかってしまうと最終的には1歳前後で、残念ながら死亡してしまいます。
セロイドリポフスチン症【CL】(代謝性疾患)
ボーダー・コリーやオーストラリアン・シェパード、ダックスフンド、スムース・コリーなどの犬種で発症しやすいと言われているセロイドリポフスチン症は、中枢神経が変性してしまって脳にセロイドリポフスチンという色素が蓄積することで、小脳に障害が起こる疾患です。
有効的な治療法はなく、運動機能の低下や視力の低下、行動の異常などが見られ、最終的には2∼4歳までには命を落としてしまいます。
犬の遺伝子病検査の実施方法や費用
基本的に、多くの遺伝子病検査の実施方法は、綿棒で犬の口腔内粘膜を擦り取り、専門の機関で検査、結果を判定してもらいます。
また、費用面については1つの遺伝子検査につきという場合もあれば、まとめてその犬種が危惧する複数の遺伝子病をセットにした費用となっていて、1項目あたりの平均金額の場合、5,200円~5,500円ほど、3つの項目セットで検査を依頼する場合であれば、15,000円~15,500円ほどで確認することができるようです。
遺伝子検査キットを提供している株式会社Pontely(URL:https://www.pontely.com/aboutus)や株式会社Veqta(URL:https://www.veqta.jp/)では、セット価格の詳細などが詳しく掲載されておりますので、気になる方はご覧になってみてください。
犬の遺伝子病は、命に直接関わらない疾患もありますが、やはり命に直接かかわってしまう疾患を持って産まれてきてしまうと、飼い主さんに限らず、その子犬自身にとっても耐え難い現実が待ち受けています。
そのような状況にならないためにも、犬を迎える時には、ブリーダーであれ、ペットショップであれ、しっかりと遺伝子病検査を受けているかどうか、受けていない場合には、動物病院にて受けられるのか、はたまた個人で遺伝子病検査キットを用いて行うのかなどの説明をちゃんとしてもらうことが大切です。
冒頭でもお伝えしましたが、遺伝子病が現れる判断基準で最も注意が必要なのは、劣性遺伝(aa<アフェクテッド>)の子犬が産まれてしまった時ですので、遺伝子病検査をちゃんと受けているかどうかイマイチ分からない保護犬の場合には、一度動物病院の先生に相談して、その後の方針や指示を仰ぐよう心掛けてください。
まとめ
いかがでしたか?
遺伝子病検査は、現段階で判明している遺伝子病のみに有効な検査のため、それまで発見されていない疾患を見つけられる訳ではありません。
ですが少なくとも、命に関わるような遺伝子病について言えば、これらの検査によって、無配慮な繁殖で、悲しい結果に終わる命を減らすことは可能だと思います。
<参考書籍>
気持ちを知ればもっと好きになる! 犬の教科書
最新版 愛犬の病気百科 気になる初期症状から最新医療までがわかる
<参考サイト>
Bio‐Art 日本小動物繁殖研究所|代表的な遺伝子病
>https://bioart.or.jp/genetest/84-2/
一般社団法人 ジャパンケネルクラブ|遺伝子疾患について考えよう
>https://www.jkc.or.jp/certificates_and_breeding/guidelines/approach/dna-deseases
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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