「免疫機能の60%は腸に集まっている」と言われるほど、腸は健康と密接に関わっています。そのため、食事や運動に気をつけて腸内環境を整えようという「腸活」が最近注目されていますね。
では、犬にとっても「腸活」というのは、大事なことなのでしょうか?
今回は、「飼い主さんができる愛犬の腸活」や「年齢ごとの犬の腸内環境の変化」についてお話しするので、ぜひ最後までご覧ください。
犬の腸内にはどんな菌がいるの?
まず、犬の腸内にはどんな菌がいるのかを知っておきましょう。
下の図は岐阜大学大学院連合獣医学研究科の深田教授が、犬の腸内環境を調べたときのグラフです。
▼犬の腸内の細菌叢
▼グラフの菌の簡単な解説
・ウェルシュ菌→悪玉菌の一種
・乳酸桿菌→善玉菌の一種
・腸内細菌科→腸内細菌の一種
・ペプトコッカス科→感染症を引き起こす菌
・連鎖球菌科→感染症を引き起こす菌、日和見菌の一種
・ビフィズス菌→善玉菌の一種
・ユウバクテリウム→日和見菌の一種
・バクテロイデス→日和見菌の一種
グラフを見てみると、人と同じように犬にも色々な腸内細菌がいることがわかりますね。
腸内細菌は、「善玉菌(健康維持に役立つ)」「悪玉菌(腸内腐敗作用がある)」「日和日菌(健康時は無害だが体が弱ると良くない働きをする)」の大きく3つに分けられます。
「善玉菌だからたくさんいた方がいい」「悪玉菌だからいない方がいい」というわけではなく、それぞれ働きがあるので3種類の菌のバランスが取れていることが大切です。
では、どういったことが原因で腸内環境は変化してしまうのでしょうか。
年齢や生活環境で犬の腸内環境は変わる?!
ペット保険のアニコム損保が契約している犬の腸内環境を調査したところ、「犬の年齢によって腸内環境が変わる」「犬の生活環境で腸内環境が変わる」ということがわかりました。
それぞれ見ていきまょう。
犬の年齢によって「腸内環境」が変わる?!
下の図は、アニコム損保が保険契約中の犬9,624頭の腸内細菌(ビフィズス菌)の推移を年齢ごとにまとめたグラフです。
▼犬の年齢ごとの「ビフィズス菌」の推移
上の図を見ると、年齢が上がるごとに善玉菌の一種であるビフィズス菌が減っていることがわかりますね。
つまり、年齢が上がるごとに犬の腸内環境は変化しやすくなるということです。
年齢が高くなると消化吸収能力が落ちたり、食欲が低下して食事内容が変化したりします。
そういった生理的変化が腸内環境にも影響していると考えられます。
そのため、高齢になってからはもちろん年齢が若いうちから腸内環境を気にしてあげることが大切です。
犬の生活環境によって「腸内環境」が変わる?!
年齢だけではなく、犬の生活も腸内環境に影響を与えていることがわかりました。
下の図は、犬のライフスタイルと腸内細菌の数を比較した表です(腸内細菌検査をした犬1,197頭を対象にアンケートを実施)。
ライフスタイルを比べてみると、「散歩の頻度が高い犬」「歯みがきの頻度が高い犬」ほど腸内細菌が多くいるということがわかりました。
腸内細菌に影響を与える要因の一つに「ストレス」があり、動物にストレスを与えると乳酸桿菌やビフィズス菌が減少すると言われています。
散歩に頻繁に行くことによって、犬のストレスが軽減され、腸内環境にもよい影響を与えていることが考えられます。
また、口内の細菌を飲み込むと腸内環境にも影響を与えることが新潟大学の研究によってわかっています。
犬のライフスタイルを整えることが、結果として犬の腸内環境も整えるということに繋がるのですね。
腸活をすると、どんな良いことがあるの?
では、犬の腸内環境を整える「腸活」をすると、どんな良いことがあるのでしょうか。
ポイントを3つにまとめました。
▼犬の腸活のメリット3つ
①便の臭いや状態の改善に役立つ
➁口臭の改善に役立つ
➂アトピー性皮膚炎の改善に役立つ
①便の臭いや状態の改善に役立つ
下痢の犬の便を調べると、健康な犬に比べて悪玉菌の一種である「ウェルシュ菌」が増加傾向にあることがわかりました。
ウェルシュ菌が腸内で増えると、便の状態を悪くするだけでなく、臭い物質をどんどん作り出すので便の臭いもきつくなります。
そんな便の状態が悪い犬にビフィズス菌を投与したところ、便の状態と便臭が改善したと報告があります。
腸内細菌のバランスを整えると、便の状態や便臭改善の効果が期待できますね。
➁口臭の改善に役立つ
実は口の中にも「善玉菌」や「悪玉菌」おり、悪玉菌が優勢の口内環境であれば、口臭もきつくなります。
犬に「口腔内善玉菌」を投与したところ、口腔ガスやアンモニア臭などの口臭が軽減したと報告があります。
先ほども少しお話ししましたが、口内の細菌を飲み込むと腸内細菌にも影響があります。
そのため、口内に悪玉菌や歯周病菌が多いと、腸内環境も悪化しがちになります。
口内の善玉菌を増やすことは、口臭軽減だけでなく腸内環境を整えることにも繋がります。
➂アトピー性皮膚炎の改善に役立つ
ステロイド治療中のアトピー性皮膚炎の犬に乳酸菌(Lactobacillus paracasei)を投与したところ、かゆみなどが減少し皮膚症状が改善したと報告があります。
腸にはたくさんの免疫機能が集中しているので、善玉菌が増えると免疫細胞がしっかりと働いて炎症を抑えるなどの影響があると考えられています。
お薬を使って症状を改善していくことが大前提ですが、アトピー性皮膚炎に対する補助的治療に腸内環境を整えることが有効であるとして、現在研究が進められています。
愛犬のために飼い主さんができる腸活は?
ここまでの内容で腸内環境を整えることは、愛犬の健康を考える上でとても重要なことだということが伝わったと思います。
では、愛犬のために行える腸活はどんなことがあるのでしょうか。
▼愛犬のためにできる腸活
・ストレスの少ない生活を送らせる
・口内のケアをしっかりする
・腸内の善玉菌を増やしてあげる
ストレスの少ない生活を送らせる
動物がストレスを受けると乳酸桿菌やビフィズス菌が減少し、有害菌であるブドウ球菌(食中毒などを引き起こす)やコリネバクテリウム(感染症を引き起こす)が増加することがわかっています。
「毎日散歩や全身運動をさせる」「遊びやコミュニケーションの時間をしっかりとる」など、愛犬がストレスの少ない生活を送れるように心がげましょう。
口内のケアをしっかりする
新潟大学で行われた研究によると、歯周病の原因菌をマウスの口から投与したところ、腸内細菌を大きく変化させ全身的な炎症を引きおこしたと報告されています。
つまり、口内のケアを怠ると免疫機能が集中している腸まで影響を受けてしまうということです。
一見、歯と腸は関係ないように思えるかもしれませんが、歯みがきなどで愛犬の口腔環境を良くすることは大事な腸活のひとつです。
腸内の善玉菌を増やしてあげる
腸内を健やかに保つには、善玉菌が優勢になりやすい腸内環境を作ってあげることが大切です。
ケストースや食物繊維などは善玉菌のエサになるので、善玉菌が元気に働いてくれる環境を作りやすいです。
他にも善玉菌が取れるペット用のサプリメントを活用するのもよいでしょう。
ただ愛犬の健康状態によっては、逆効果になることもあるので、サプリメントを使用する際は獣医師さんに相談してからにしましょう。
「腸活」というと、「善玉菌を取る」「乳酸菌を取る」というイメージがありますが、実際には年齢やライフスタイルも影響してきます。
腸内環境を整えることは、愛犬の健康を保つうえでとても大切なので、今回お話しした内容を覚えて愛犬の健康管理に活かしてみてくださいね。
<参考URL>
腸内細菌に関する研究 アニコム損保
>https://www.anicom-page.com/hakusho/book/pdf/book_201712_4.pdf
ペット栄養学会誌 イヌ・ネコにおけるプロバイオティクスについて
>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpan/21/3/21_158/_pdf/-char/ja
犬猫にプロバイオティクスは必要か?
>http://www.vmdp.jp/products/pdf/bb_09.pdf
歯周病が全身に及ぼす悪影響の新たなメカニズムを解明 新潟大学
>https://www.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/04/260501.pdf
口腔内善玉菌を使用した治療”プロバイオティクス
>https://www.minamigaokaah.com/column/column_20160515_1135.html
ケストース機能性 ペット整腸作用
>https://rd.bfsci.co.jp/rtheme/247/
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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