犬を飼いたい。そう思ってペットショップやブリーダーさんなどで子犬を迎えると、必ず言われることがあります。
それが…。
「狂犬病の予防接種は必ずしてください」
狂犬病という言葉は聞いたことがあっても、実際にはよくわからないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、なぜ狂犬病予防接種をする必要があるのか、しなかった場合のペナルティは?狂犬病予防法とはどんなものなのかをご紹介します。
<目次>
日本では明治30年頃を起点に流行しだした狂犬病
そもそも狂犬病とは、モノネガウイルス目、ラブドウイルス科、リッサウイルス属と言われる発症するとほぼ100%死に至る致死率の非常に高い感染症のことを言います。
‘’狂犬‘’病と名がついていることもあり、犬がなりやすい感染症というイメージが強く残っている方も多いかもしれませんが、狂犬病は全ての哺乳動物に感染する感染症です。
日本で大々的に流行しだしたのは1897年(明治30)頃に入ってからで、1924年(大正13)に至っては、犬で3,205頭、人で235人が確認されるほど、猛威を振るっていたこの狂犬病。
狂犬病予防法が施行されるまでは増減を繰り返していましたが、1950年(昭和25)を境に、徐々に件数が減っていき、1957年(昭和32)の猫での発症を最後に、国内の狂犬病発生は見られなくなりました。
|
1954年 |
1955年 |
1956年 |
1957年 |
---|---|---|---|---|
死亡者数 |
1人 |
0 |
0 |
0 |
犬の発生数 |
98頭 |
23頭 |
6頭 |
0(猫の発生1頭) |
狂犬病洗浄国ではない世界の狂犬病事情
狂犬病がこうして終息したと言われている国は、日本以外にはオーストラリアやニュージーランド、イギリスといった一部の国と地域だけで、現在においても世界中では狂犬病が頻発している国は多く存在しています。
世界保健機構(WHO)の情報によれば、全世界の狂犬病による死者は毎年55,000人以上とされており、日本でも2006年(平成18)のフィリピン旅行者の発症や2020年(令和2)5月にも同様に、フィリピンからの帰国者が、現地で犬に咬まれ、帰国後発症、死亡した例が報告されています。
【狂犬病の世界発生状況】
▲WHO Weekly epidemiological record 15 JANUARY 2016, 91th YEAR 厚生労働省健康局結核感染症課(2016年6月28日作成)
出典元:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/pdf/03.pdf
上記の図のように現在でも多くの国で発症している狂犬病は、国内自体から発症することはなくなったものの、国外から持ち込まれた狂犬病の発症については、引き続き注意が必要です。
狂犬病の具体的な症状とは?
狂犬病に感染した犬に咬まれた場合、感染してから発症するまでの潜伏期間は咬まれた場所によって様々で、通常約1週間~8カ月の間に発症されると言われていますが、脳から遠いほど潜伏期間は長くなります。
では、狂犬病に実際に罹ってしまった時の主な症状とはどんなものなのでしょうか?
人が罹ってしまった場合と、犬が罹ってしまった場合とでは何か違いがあるのか、以下の2タイプに分けて見ていきましょう。
狂犬病の症状タイプその①:狂騒型
狂犬病に罹った際に大部分の感染犬で起こりうる狂騒型は、典型的な病型と言われています。
主に犬の場合は、性格は狂暴化し、ウイルスを含む大量のよだれを流します。そして、対象問わず噛み付くようになってしまった後は、三叉神経、舌下神経がウイルスによって過敏化し、水や唾液が刺激物となり、全身性の痙攣を起こして、水を怖がる恐水発作を起こしてしまいます。
その結果、数日以内に意識障害、運動障害が起こり起立不能、昏睡状態に陥り、発症後3日から3週間程度、通常1週間で死亡してしまいます。
狂犬病の症状タイプその②:麻痺型
凶暴性、攻撃性が見られず、比較的稀に起こる麻痺型は、狂騒型を経ることなくそのまま神経の麻痺に移行するタイプです。
そのため、人の場合は強い不安感や錯乱、水を見ると喉の筋肉が痙攣してしまう恐水症、風邪に当たると痙攣を起こす恐風症などが起こり、他にも高熱や運動失調、全身痙攣などが起こり、食事や飲水が出来なくなってしまいます。
犬も同様に、似たような経過を辿ることによって最終的には脱水や削痩(痩せ細る)をしてしまい、狂騒型と同じく1週間以内に死亡してしまいます。
昭和25年に施行された狂犬病予防法と罰則について
狂犬病予防法とは、1950年(昭和25)法律第247号として制定された狂犬病の発生を予防し、そのまん延を防止し、及びこれを撲滅することにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ることを目的とした法令です。
この法律の適用範囲とされている対象動物は、主に犬、猫、アライグマ、キツネ、及びスカンクで、これらの動物は狂犬病を人に感染させる恐れが高いとして定められています。
詳しい法律の内容としては、
狂犬病予防法第二章 通常措置 【第五条】
犬の所有者は(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について厚生労働省で定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。
とされています。
このように基本的に狂犬病の予防注射を義務付けられているのは犬のみであって、現時点では猫に対する義務付けはされておりません。
また、罰則についても犬に対して年に一度の予防接種をさせなかった所有者には20万円以下の罰金が課される可能性があるとされています。
なぜ犬にのみ狂犬病予防が義務付けられているのか?
犬のみならず、全哺乳動物に感染すると言われている狂犬病ですが、中でもなぜ犬にのみ年に一度の狂犬病予防接種が義務付けられているのかというと、アジア圏の流行経路が犬に咬まれたことによる感染が多いとされているからです。
【狂犬病媒介動物状況】
▲厚生労働省
出典元:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/pdf/index-map.pdf
海外からの帰国者が感染、発症している事例もほとんどが犬による咬傷事故によるものなので、犬に対する狂犬病予防接種は義務付けされているのが現状です。
・ワクチン接種によってアレルギーを引き起こしたことがある
・疾患や免疫疾患など、持病を持っている
・高齢になり、体力低下や免疫低下が見られる
ただし、この義務付けは上記の理由などでかかりつけの獣医師が接種を行わない方が良いと判断した時には、「狂犬病予防注射猶予証明書」を発行してもらうことが可能です。
まとめ
いかがでしたか?
『狂犬病』という名前は聞いたことがあっても、実際に流行していたのが半世紀以上前の事だと思うと、流石に想像するのも大変ですよね。
今後グローバル化がますます進んでいく中、愛犬も飼い主さんも安心して毎日を過ごすためにも、狂犬病予防注射は忘れずにしたいものですね。
<参考書籍>
犬の医学
最新版 愛犬の病気百科
ペット六法 第2版
<参考サイト>
狂犬病:その歴史と現状ならびに防疫対策
>https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/16/2/16_2_27/_pdf/-char/ja
厚生労働省|狂犬病
>https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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