「わんちゃんに穀物は不要!」「穀物が入っているペットフードは良くない!」という話をよく耳にします。そういう理由でペットフードを見直された方も多いのではないでしょうか?
本当に穀物がわんちゃんにとって良くないのかどうか動物看護師が解説します。
<目次>
穀物ってなに?
穀物とは、植物から得られる食材の総称の1つで、澱粉質を主体とする種子を食用とするもの。一般的にペットフードに含まれる穀物と言うと、米・小麦・あわ・ひえ・とうもろこしなどのイネ科作物の種子(禾穀類)、大豆・エンドウ豆・レンズマメなどのマメ科作物の種子(菽穀類)などを指します。
「穀物=炭水化物」のイメージがありますが、穀物の中には、炭水化物だけではなくタンパク質や脂質も含まれており、体を作ってくれたり、皮膚をきれいにしてくれます。
穀物は犬の体に良くない・不要と言われるワケ
なぜ、穀物は犬の体に良くない、あるいは不要と言われるようになったのでしょうか?
よく聞く理由が、「1. 犬は肉食だから穀物は不要」「2. 犬は穀物を消化できない」「3. 穀物はドッグフードのかさ増しのために使われているので」の3つです。
1. 犬は肉食だから穀物は不要?
上図は犬に好ましいとされる栄養素のバランスとオオカミの食性を比べた図です。
犬はオオカミと同じ食性と思われていますが、完全肉食ではなく雑食。体を動かすためのエネルギー(炭水化物)も必要です。
お肉だけで必要なエネルギーをまかなおうとすると、タンパク質や脂質が過剰になってしまい、栄養のバランスが崩れてしまいます。
2. 犬は穀物を消化できない?
英科学雑誌ネイチャーが発表した論文によると、犬はオオカミよりも効率的に炭水化物(デンプン)を消化できる能力を持っているそう。犬とオオカミは祖先が同じですが、消化吸収の能力は大きく分かれたのですね。
また、別の論文(参考文献※1)では、小麦、トウモロコシ、米などのデンプンの消化率を調べたところ、99%以上消化されていたと報告されています。
犬が人に近い食事でも栄養が取れるように、消化能力を適応させてきた証でもありますね。
3. 穀物はドッグフードのかさ増しのために使われている?
通常、お肉と穀物を比べると、穀物の方が価格は安いのでコストカットにはなります。しかし、穀物は活動するために必須なエネルギー源です。
穀物が全く入っていないと、活動するためのエネルギーを得ようとして体を作っているタンパク質や脂肪を分解して使うようになります。その結果、筋肉量が減ったり、免疫力が低下して病気になりやすくなります。
よって、一概に穀物は犬の体に悪いとは言えないのです。良質な穀物には、肉には含まれていない栄養素が含まれており、それぞれバランスよくとることが大切なのです。
穀物が含まれないペットフードは消化率が高くて犬の体に良い?
消化率が高いものがたくさん入っていると、いいペットフードだと思っていませんか?
大麦や小麦ふすまの中には、食物繊維や難消化性デンプンが含まれており、消化することができません。しかし、「消化できないもの=悪者」かというとそうではありません。
食物繊維や難消化性デンプンは血糖値が上がるのを抑えてくれたり、腸内細菌のご飯となることでお通じを良くしてくれます。
極端に消化率が悪いものが多く含まれているペットフードは問題ですが、消化率が高いものばかり入っていればいいというわけではないのですね。
ペットフードに穀物を入れる理由は?
一口に穀物といっても、使っている部位によって色んな栄養素を取ることができます。
例えば小麦。
また、トウモロコシや大豆は皮膚をきれいに保つのに欠かせない植物性タンパク質が豊富な穀物です。
穀物は、ペットフードの形を整えたり、輸送のときに砕けにくくしたり、保存性をあげるために欠かせません。
コストカットやかさましと思われがちな穀物ですが、育て方や処理方法によってはお肉と同じくらいコストがかかる場合もあります。
ペットフード全体のバランスをとるためにも、穀物は必要なんですね。
ペットフードに穀物が含まれているときの注意点
今までペットフードに穀物は必要とお伝えしましたが、注意点もあります。
食べ物に含まれている炭水化物が多いほど血糖値は上昇します。小麦やトウモロコシは含まれている炭水化物量が多いので、血糖値が一気に上がります。また、小麦や大豆には「フィチン酸」という成分が含まれており、皮膚をきれいに保つのに欠かせない「亜鉛」の吸収を邪魔してしまいます。
穀物にはいい成分も入っていますが、大切なのはバランスです。動物性タンパク質よりも極端に穀物が多いと、皮膚病などの病気を引き起こしかねません。極端に穀物が多く入っていないか原材料を見て確認しましょう。
わんちゃん=肉食というイメージから、穀物を与えていいのか心配する飼い主さんは多いです。根拠のない話で穀物不要といっているサイトもよく見かけます。
どんな食べ物もそうですが、バランスが大切。わんちゃんの体質に問題がなければ、0か100ではなく、上手に穀物の栄養を取り入れたいですね。
<参考文献>
・環境省 飼い主のためのペットフード・ガイドライン
・※1 Evaluation of selected high-starch flours as ingredients in canine diets
・The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet
・日農医誌 小麦ふすまが食後血糖・インスリンに及ぼす影響
・ペット栄養学会誌 ペットフードで使用される主な食物繊維・オリゴ糖源原料
・日本農産工業㈱ 研究開発センター ビーグル犬 における難消化性澱粉の負荷試験成績
・ペット栄養学会誌 ナチュラル・オーガニックフードの誤解 米国におけるペットフード業界の傾向と規制の実態
・最新研究で明らかになった正しいタンパク質の摂り方 タンパク質の栄養学
・あなたの糖質制限はここが間違っていた 栗原クリニック東京・日本橋院長
・レジスタントスターチの栄養・生理機能 日本調理科学会誌
・【獣医師が解説】ペットの栄養編: テーマ「食物繊維の魅力」
・獣医師のドッグフード研究コラム 第1回:犬の食事に含まれる三大栄養素の割合
・アジア動物スキンケア検定 公式テキスト 動物スキンケア実践ガイド 岩﨑 利郎 (著)
・臨床栄養学 獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠 阿部又信 (著), 左向敏紀 (著)
・動物栄養学 寺島 福秋 (著), 左 久 (著), 矢野 秀雄 (著), 阿部 又信 (著), 秋葉 征夫(著), 奥村 純市 (編集), 田中 桂一 (編集)
・動物看護のための小動物栄養学 著者/阿部 又信 監修/日本小動物獣医師会 動物看護師委員会
・肉食女子の肌は、なぜきれいなのか? 細胞から整える分子整合栄養医学のすすめ 森谷 宜 朋 (著)
・イヌの老いじたく: 年を重ねた愛犬を守るために本当に大切なこと 著者: 臼杵新
<画像元>
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Unsplash
Pixabay
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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