犬の脱毛と聞くと、痒がったりすることで起こるものというイメージが強い方は多いのではないでしょうか?
ましてや「痒がる素振りがないのに脱毛なんて…」と、思われる飼い主さんも少なくないかもしれません。しかし実は、時として犬には『痒がらないのに脱毛する』という症状が見られてしまうことがあります。
今回は痒がらないのに起こる犬の『季節性脱毛症』について、その原因や症状、似たような疾患、治療法などを解説します。
<目次>
犬の『季節性脱毛症』とは?
痒みもないのに脱毛してしまう症状として知られる犬の『季節性脱毛症』とは、一般的に秋~冬にかけて体の一部分(主に背中~腰にかけて)が脱毛し、春~夏にかけて育毛が見られる脱毛症のことを指します。
主にミニチュア・シュナウザーやボクサー、エアデール・テリア、ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグなどに発症が多く、発症年齢の多くが3歳~6歳までに多いと言われています。
基本的には多くの場合、季節の移り変わりとともに脱毛の再発が認められるとされておりますが、1度きりというケースも存在するようです。
▽『ミニチュア・シュナウザーによる季節性脱毛症の一例』
ただこれら『季節性脱毛症』は、先程も述べた通り季節が来れば、上記画像のように通常は自然と毛が生えてくるという特徴を持ち合わせています。
けれど、中には脱毛してしまった結果、その後ずっと毛が生えてこないという場合もあるようなので、注意が必要です。
また、一般的に『季節性脱毛症』は、これといった健康上の問題がなければ心配は無用とされていますが、場合によっては他の病気も考えられる可能性があるため、油断は禁物です。
特に3歳~6歳を迎えている上記犬種で、それまで問題がなかったのに突如痒みのない脱毛が見受けられた際には、動物病院を受診するよう心掛けましょう。
『季節性脱毛症』になってしまう原因って?
一般的に犬が『季節性脱毛症』を発症してしまう原因は、現在のところハッキリと解明されておりません。
ただし、北緯45度より北側での発生が多いことから、日照時間の変化によるホルモンへの影響などが原因としてあるのではないかとは言われています。
また、特定の犬種で好発することから、遺伝的な要因の関与も疑われています。
とはいえ、現時点ではハッキリとした原因が解明されていないのは変わりないため、すでに原因が解明されている皮膚病(アトピー性皮膚炎や膿皮症、アレルギー皮膚炎など)とは、一線を画す皮膚病だということは覚えておきましょう。また、いくら好発しやすい犬種にも特徴があるからと言っても、当然それら犬種以外でも可能性としては捨てきれない事を忘れてはいけません。
特に日本犬で皮膚疾患に罹りやすい柴犬などは、その症状が原因の解明がなされている皮膚病(アトピー性皮膚炎や膿皮症など)なのか、そうでないのかでは、対処法も変わってきますし、治療法も変わってくるため、慎重な判断が必要となることを覚えておいてください。
『季節性脱毛症』の主な症状とは?
それでは続いて、犬が起こす『季節性脱毛症』の主な症状をご紹介します。
原因が解明されていないとはいえ、具体的に以下のような症状が愛犬に見られた場合には、『季節性脱毛症』を疑ってみるように心掛けてください。
▼【犬の季節性脱毛症の主な症状】
・皮膚症状以外に気になる症状がない
・痒がる素振りがないのに脱毛している
・脱毛してしまっている部分に色素沈着が見られる
・背中から腰にかけて左右対称に脱毛症状が見られる
・新しく生えてきた被毛が濃かったり薄かったりする
愛犬が『季節性脱毛症』を発症してしまった時には、これらのような症状が見受けられます。
特に、皮膚症状以外に気になる症状がなく、痒がる素振りを見せないのに脱毛、脱毛した部分とそうでない部分の境界に明らかなる色素沈着が認められる場合には、『季節性脱毛症』の可能性が考えられます。
犬の被毛というのは、本来犬の地肌を乾燥や刺激から守る役割を果たしているため、上記画像のような状態にまで進行してしまうと、その役割を果たせなくなってしまいます。
そのため、このような状態の場合には一刻も早い原因の解明と、肌を守るための何らかの対策に努めるよう意識しておきましょう。
『季節性脱毛症』の症状と似ている疾患とは?
犬の皮膚疾患に様々な種類が存在することは、多くの飼い主さんがご承知の通りかと思います。
ある時期になるとしきりに皮膚を痒がっていたり、食物に対して反応して痒がっていたり、はたまた、細菌やカビといった感染症に罹ってしまったことで痒がっていたり…。
ただこれらの疾患では、共通して“痒がる”という症状が見られる場合が多々あるため、その原因は特定しやすく、処置もしやすいという特徴があります。
では、痒みを伴わない『季節性脱毛症』の症状と似ている疾患ではどうでしょうか?なにかピンとくるような疾患はあるでしょうか?
ここでは、『季節性脱毛症』の症状と似ている疾患を以下でいくつかご紹介します。
ホルモン性疾患による脱毛
『季節性脱毛症』の症状と似ている疾患として挙げられるものには、ホルモン性疾患による脱毛症状があります。
ホルモン性疾患に該当する疾患には、主に副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と、甲状腺機能低下症というものがあります。
これらはどちらもホルモン生成に関連する疾患で、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)では、一般的に中高齢犬で痒みのない左右対称の身体への脱毛が見られます。
▽『副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を発症したウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアの一例』
一方、甲状腺機能低下症では、一般的に中高齢犬で痒みのない左右対称の脱毛が見られるのは副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と同じですが、その範囲が身体全体や尻尾などに現れ、加えて被毛のパサつきなどが目立つのも特徴です。
▽『甲状腺機能低下症を発症したシェットランド・シープドッグ(2代目愛犬)の一例』
遺伝性疾患による脱毛
遺伝性疾患とは、その犬特有に発症する疾患のことを指しますが、ある特定の疾患によっても『季節性脱毛症』の症状と似ているものがあります。
それは、パターン脱毛症と脱毛X(通称:アロペシアX)です。
パターン脱毛で見られる脱毛症状では、多くが腹部周辺に左右対称の脱毛が見られ、通常、痒みや赤みは伴いません。こうしたパターン脱毛を発症しやすい犬種には、チワワ、ミニチュア・ダックスフンド、ミニチュア・ピンシャーなどで、且つ若齢犬に多い傾向があります。
▽『パターン脱毛を発症したミニチュア・ダックスフンドの一例』
一方、脱毛X(アロペシアX)では、発症してしまうと頭と四肢以外の体全体に脱毛が見られますが、通常、痒みや赤みは伴いません。また、主にこうした脱毛X(アロペシアX)は、ポメラニアンやパピヨン、トイ・プードル、チワワなどの若齢犬に見られ、中でもポメラニアンに多く発症することで有名です。
▽『脱毛X(アロペシアX)を発症したポメラニアンの一例』
『季節性脱毛症』の治療方法とは?
『季節性脱毛症』の主な治療法は、今のところこれといったものが確立されておりません。
また、『季節性脱毛症』は基本的に脱毛と育毛を季節に合わせて繰り返し行うため、健康上に問題がなければ特別な治療を必要とすることも少ないようです。
しかし、やはり見た目的に気になってしまったり、この状態から早く脱却したかったりする場合には、脱毛が始まる数カ月前から、ホルモン剤の投与やサプリメントの活用などが検討されます。
ただ、『季節性脱毛症』という疾患は、通常私たち飼い主が身近に触れる皮膚疾患とは状況の違った皮膚疾患のため、まずは詳しい原因究明に努め、その上で保存的治療という観点からも付き合っていくよう心掛けることが大切だと言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?
今回は、秋~冬の期間に犬で起こる『季節性脱毛症』について、原因や症状、似た疾患、治療法などをご紹介しました。
犬の皮膚疾患というのは、多くが搔痒感などを伴う症状があることから、掻痒感を伴わない脱毛に関しては、あまりイメージが湧かないものかもしれません。
しかし例え掻痒感や発赤症状などがなくても、脱毛といった症状は見られる場合があります。特に皮膚疾患を持ちやすいワンコを迎えた飼い主さんに関しては、こうした痒みを伴わない皮膚疾患もあることを、是非とも覚えておいてくださいね。
<参考サイト>
犬の季節性脱毛症について|冬に毛が抜ける珍しい皮膚病|サーカス動物病院
>https://circus-ah.com/wp/archives/2103
犬の季節性脱毛症って?原因・症状・治療・予防法まとめ【獣医皮膚科専門医が解説】|どうぶつの皮膚科耳科アレルギー科
>https://magazine.vdt.co.jp/2877/
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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