漢方薬と聞くと、大体の人は人間に有効な薬というイメージを持たれる方は多いのではないでしょうか?
けれど、実は犬の疾患にも漢方薬が有効なのをご存知ですか?
今回は、西洋医学と併用して試してほしい疾患別オススメ漢方薬やご自宅でも真似できる身近な生薬、漢方薬を与える時の用量、副作用についてご紹介します。
ペットにとっての漢方薬とは?
漢方薬とは、一般的に自然界にある植物や鉱物などの『生薬』を複数使って、組み合わせた薬のことを言います。
また、漢方薬は基本的には人に服用する場合と犬に服用する場合で、特別な生薬の違いはなく、人が服用する漢方薬で代用が可能です。
現代社会では、人であれ、犬であれ、基本的には西洋医学が第一優先されることが多く、漢方薬や鍼灸治療は西洋医学的治療に行き詰った場合や治療中の病気がなかなか治らず苦しんでいる場合の選択肢として利用される印象が強いですが、実際には漢方薬は西洋医学とは違って、症状を抑える対処療法ではなく、体質改善、体質強化に用いられる薬です。
そもそも西洋医学と東洋医学とでは得意とする専門分野が違うため、西洋医学だけでは抑えられなかった症状も、東洋医学の漢方薬ではあっさりと改善する場合もあります。
例えば犬を迎えて最初に飼い主さんが選択を迫られる避妊・去勢手術では、術前に『補中益気湯(ほちゅうえっきとう)』という漢方を愛犬に与えていると、術後回復を手助けしてくれると言われています。
漢方薬は、西洋医学のようにピンポイントで症状が出ている部分に効く訳ではなく、血液循環や身体を動かすためのエネルギーの流れを改善しながら症状緩和を目指します。
そのため、漢方薬は人はもちろんのこと、シニアになったワンちゃんやまだまだ活動的なワンちゃんにも試してほしい医療方法です。
わんこの疾患別オススメ漢方薬と用量
それでは、犬の疾患別に効果的な漢方薬には、どういったものがあるのでしょうか?
疾患別に効果的な漢方薬の種類と用量をご紹介します。
【犬の疾患別オススメ漢方薬】
疾患 |
オススメ漢方薬 |
ドライアイ・炎症 |
黄連解毒湯、葛根湯、竜胆瀉肝湯など |
外耳炎・炎症 |
越婢加朮湯、十味敗毒湯、竜胆瀉肝湯、小柴胡湯など |
風邪(初期・こじれ) |
小青竜湯、麻杏甘石湯、麦門冬湯、葛根湯など |
鼻詰まり・副鼻腔炎 |
葛根湯加川芎辛夷、小柴胡湯、荊芥連翹湯など |
消化器全般 |
加味逍遥散、小建中湯、補中益気湯など |
肝機能・肝炎・黄疸 |
小柴胡湯、大柴胡湯、茵蔯五苓散など |
皮膚(痒み・炎症) |
白虎加人参湯、黄連解毒湯、消風散、温清飲など |
腎不全・虚弱・尿もれ |
柴苓湯、八味地黄丸、猪苓湯、五苓散など |
ストレス・脳神経 |
抑肝散、加味逍遥散、桂枝加龍骨牡蛎湯など |
心機能不全 |
木防已湯、五苓散、寧心など |
いかがでしょうか。
皮膚の痒みや外耳炎、生活環境などによって抱えてしまうストレスなんかは、成犬でも起こりやすい疾患です。
しかし、これら漢方を使用する際には単一、もしくは西洋医学と併用して服用することで、症状の改善などが図れます。
また、犬に漢方薬を与える際の用量目安ですが、基本的には厳密な量は決まってはいません。
ですが、おおよそ5kg~15kgまでの犬で0.15g/kgを目安とし、症状や状態に合わせて加減をします。
一般的に漢方薬は効果がすぐに表れないと思われがちですが、種類によって異なるため、まずは上記の基本料を目安に与え、10日~2週間を目処に様子を見ましょう。
また、前述でもお伝えした通り、犬に服用する漢方薬は、人が服用する漢方薬で代用可能なものの、あくまでも人基準で作られた漢方薬であることには変わりないため、当然乱用にならないように注意する必要があります。さらに、もしも愛犬がすでに服用している薬があるなら、かかりつけの獣医さんと相談した上で、服用するように心掛けましょう。
身近な生薬で犬の滋養強壮を図れる食材
犬に漢方薬を処方したくても、なかなか良い値段がするのも漢方薬なので、出来れば身近にある食材で最初は試したいと思う飼い主さんには、以下のような食材がおススメです。
【犬にも与えたい身近な生薬】
・紫蘇・青紫蘇(大葉)
・ショウガ
・クコの実
日本で昔から薬味として用いられてきた紫蘇やショウガなどは、身近な生薬として扱える食材ですよね。
また、杏仁豆腐などに使われるクコの実もおやつやトッピングの材料として、今では犬用に市販されている食材です。
主に紫蘇や青紫蘇(大葉)を愛犬に与えることで得られる効果としては、アレルギー症状の緩和や解毒、鎮痛、抗菌作用などが挙げられます。
紫蘇はどちらかというと、漢方や梅干しと一緒に使われていることが多いと思いますが、青紫蘇(大葉)については一年中入手できる食材なので、是非とも取り入れてみてください。
また、ショウガは主に抗酸化作用や老化予防、新陳代謝の活性化、免疫力アップなどの効果が挙げられ、当然漢方の一つとしても使用されています。
一見「ショウガなんて与えて大丈夫?」と思われる飼い主さんも居るかもしれませんが、ショウガは犬が摂ってはいけないネギ科の植物とは違うので、意外にも食べて大丈夫な食材です。
そしてビタミンやアミノ酸、ポリフェノールなどが豊富で抗酸化作用や血糖値低下作用、ガン予防などが期待できるクコの実は、犬が食べても大丈夫な食材で、また、スーパーフードの一つとしても有名な食材です。
漢方薬を服用した方ならご存知かと思いますが、漢方薬はものによって匂いや味に違いがあり、中には苦味が強いものが存在します。
そのため、漢方薬を愛犬に与えても食べない場合には、こういった身近な生薬で一度試してみるのをオススメします。
実は筆者の3代目柴犬も、現在トッピングとして青紫蘇やショウガなどは定期的に与えていて、これといった異常もなく、むしろ毛艶やBCS(ボディコンディションスコア)も理想体重・理想体型と今のところ好調で、当の本人もそれまで以上に爛々と目を輝かせながら、ごはんが出るのを待っているくらい喜んで食べてくれるようになりました。
漢方薬には副作用がない?
良く、「漢方薬には副作用はない」と思われている方は多いと思いますが、実は漢方薬にも副作用は存在します。
ただ、西洋医学で使われる薬とは違って、日本の漢方薬の量は韓国の1/3、中国の1/10とも言われているため、投与量が万が一多くなってしまっても、そこまで問題になることは少ないとされています。
しかし、与える漢方薬の中に、以下のような生薬が含まれている場合には、副作用が出てしまう場合があるため、用量以上の投与にならないように注意しましょう。
【副作用を起こす生薬】
・附子(ぶし)→アコニチン中毒
・大黄(だいおう)→瀉下(しゃか)作用による下痢
・麻黄(まおう)→エフェドリン作用による血圧上昇
・甘草(かんぞう)→体質により偽アルドステロン症誘発
・山椒(さんしょう)→多量摂取の場合、死亡
漢方薬を服用する中で、山椒は最も危険視されている生薬の一つです。
山椒と聞くと、うなぎと一緒に食べるイメージが強く、人でもそんな大量に摂取する人はいないと思います。
しかし、漢方の投与でマウス実験が行われた際には、山椒を人の約10倍量投与後、急性中毒を起こし約3分後頓死したという結果が報告されています。
この報告は、他の副作用が懸念されている生薬では見られないものらしく、生薬で山椒は唯一急性中毒が表れるものだとされているため、犬に山椒が入っている漢方薬を服用させる場合、愛犬が超小型犬なのか、はたまた超大型犬なのかで投与する量には十分注意するように心掛けましょう。
まとめ
漢方薬は、今や人だけに留まらず、犬にとっても効果的な作用があると言われています。
しかしながら、漢方薬もやはり『薬』と名が付く以上、全く副作用がない訳でもないようなので、特に服薬中のシニア犬に漢方を与えたいと考える飼い主さんは、事前に獣医さんと相談して、万全な状態で愛犬に漢方薬を試してみてくださいね。
<参考書籍>
獣医版フローチャート ペット漢方薬
獣医版フローチャート マッサージ&漢方薬
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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