犬と人には、人畜共通感染症(ズーノーシス)と言われる共通感染症が存在しますが、実際にうつるのは稀です。
しかし、だからといってあんまりにも愛犬と飼い主さんが親密過ぎてしまうと、知らぬ間にうつってしまうかも⁉
今回は、【細菌・真菌編】と題して、犬にも人にもうつる共通感染症の種類や感染経路・予防法をご紹介します。
細菌と真菌の違いって?
一見、細菌と真菌って名前が似ているため、「どっちがどっち?」と混乱してしまいそうですが、一般的に細菌は『細胞内にDNAを守る核(核膜)を持たない』単細胞の原核生物の事を指し、真菌は『細胞内にDNAを守る核(核膜)を持つ』いわゆるカビと言われる従属栄養性の真核生物のことを指します。
犬や植物、人はこの二つの内、真核生物にあたる構造となっており、仮に真菌に犬や人が感染してしまった時には、真菌の制御だけに有効な薬の開発はなかなか難しく、したがって、副作用のない治療も難しいと言わざるを得ない状況だとされています。
一般的に犬などの動物や人に感染して病原性を示す細菌は、主にパスツレラ菌や犬ブルセラ菌、サルモネラ菌、破傷風菌などが挙げられます。
細菌に感染し増殖してしまった場合、【内毒素(エンドトキシン)】や【外毒素(エキソトキシン)】を分泌することがあり、その結果、感染した犬や人の細胞、組織が破壊されてしまうと、内毒素では悪寒や発熱、血圧降下など、外毒素では腸管毒や嘔吐毒、神経毒などの影響で健康被害をもたらしてしまいます。
一方、犬などの動物や人に感染して病原性を示す真菌の多くは、糸状の形態を示したいわゆる『カビ』と呼ばれるものです。
主に皮膚糸状菌やマラセチア菌、カンジダ菌、クリプトコッカス菌、アスペルギルス菌などが挙げられます。
真菌に感染してしまった場合、皮膚のかゆみや発赤、ぜんそくや神経異常などの健康被害をもたらしてしまうことがあります。
犬にも人にもうつる細菌の共通感染症
それでは、犬にも人にもうつる細菌の共通感染症には一体どんなものがあるのでしょうか?
代表的なものをいくつかご紹介します。
▼【細菌による人畜共通感染症】
・パスツレラ症
・犬ブルセラ症
・サルモネラ症
・破傷風
パスツレラ症
パスツレラ・マルトシダと言われる病原菌によって、主に人で症状が表れる共通感染症です。
パスツレラ・マルトシダは基本的に犬の口腔内や爪などに高確率で保菌されていて、犬に関しては通常は何ら症状を示さない不顕性感染ですが、人の場合では、犬による咬傷や創傷の感染経路によって、パスツレラ症に感染すると、ほとんど例外なく傷口の発赤や腫脹などが現れます。
犬ブルセラ症
犬ブルセラ菌という病原菌によって発症する共通感染症の一つです。
その名の通り犬に感染しやすく、犬が感染した場合には基本的には無症状なものの、妊娠している雌犬では死流産の危険性があり、雄犬では精巣上体炎や精巣の委縮を起こす場合があります。
人の場合では、犬ブルセラ症に感染している犬やその排せつ物、尿などへの接触の感染経路によって、軽症のものでは単なる風邪に似た症状を、男性の場合では精巣炎などが見られる場合があります。
サルモネラ症
サルモネラ菌という病原菌によって発症する共通感染症のサルモネラ症は、現在、約2500種類の血清型が知られており、犬だけではなく、豚や牛、ヒツジ、馬、鶏などで感染することが知られています。
犬が感染してしまった場合、子犬では発熱、下痢を伴う全身症状、最悪死亡する場合があり、成長後の発症は不顕性感染、稀に発熱や下痢などを起こすことがあります。
人の場合では、サルモネラ菌に汚染された食肉や卵、環境中から直接、または間接的に経口摂取の感染経路によって、感染後12時間~24時間で吐き気や嘔吐、下痢、発熱などの急性胃腸炎症状を起こします。
破傷風
破傷風菌という病原菌によって発症する共通感染症の破傷風は、土壌中などに広く存在する細菌が原因で発症します。
基本的には他の犬とのけんかで出来た傷口や手術の傷口などからの感染が主な感染経路となっていて、犬の場合では大体2週間程度の潜伏期間を経て、咀嚼困難や四肢などの骨格筋の硬直や痙攣が起こり、振動や音、光などにも反応するようになります。
人の場合では、約80%の患者さんに全身症状が表れ、痙攣や呼吸困難、脳炎などが見られ、現在も死亡率の高い感染症と言われています。
犬にも人にもうつる真菌の共通感染症
では、続いては犬にも人にもうつる真菌の共通感染症についてご紹介します。
▼【真菌による人畜共通感染症】
・皮膚糸状菌症
・カンジダ症
・クリプトコッカス症
・アスペルギルス症
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌の中でも犬胞子菌や石膏状胞子菌、毛創白癬菌、紅色白癬菌といった病原菌によって発症する共通感染症の皮膚糸状菌症は、主にマラセチア性皮膚炎と皮膚糸状菌症の2種類のカビによって、犬の場合では特に1歳以下の子犬で病巣が広範囲になりやすく、軽度の脱毛や乾いた垢が多くなったり、また厚いカサブタを形成したりします。
人の場合では、愛犬との接触が主な感染経路となっていて、頭や身体、足、手、爪などに円形の発赤を伴った症状が表れます。
カンジダ症
犬などの動物の口腔内、鼻、肛門の粘膜に常在しているカンジダ菌という病原菌によって発症する共通感染症のカンジダ症は、犬の場合では皮膚、消化管、泌尿生殖器で発赤や出血、潰瘍などが見られます。
人の場合では、犬の口腔からの経口、皮膚表面からの接触感染が主な感染経路となっていて、発症した際には肛門や生殖器の粘膜に発赤、または潰瘍状を呈し、化膿する場合もあります。
クリプトコッカス症
クリプトコッカス菌という病原菌によって発症する共通感染症のクリプトコッカス症は、自然界においては鳩の糞や塵埃(じんあい)から犬、人へ経気道感染、経口感染という感染経路を辿って発症します。
クリプトコッカス症の主な症状は、犬及び人共に共通しており、髄膜脳炎や鼻水やクシャミ、また、下顎リンパ節の腫れ、神経症状では、発作、沈うつ、運動失調、麻痺などが認められます。
アスペルギルス症
アスペルギルス菌という病原菌によって発症するアスペルギルス症は、基本的には犬から人への感染はなく、自然界に広く存在するアスペルギルス菌が大気や塵埃によって犬、人へ経気道感染、経口感染の経路を辿って感染する共通感染症です。
犬の場合では主に1歳以下で感染することが多く、粘液血様性の鼻水や外鼻腔の潰瘍、顔面の痛みなどの症状を呈することがあり、人の場合では肺、気管支では膿汁、分泌物の大量排出が見られ、アスペルギルス菌が大気中に大量に存在すると、ぜんそくの原因になることがあります。
細菌・真菌性の共通感染症に罹らないための予防法
愛犬だけではなく、飼い主さん自身も細菌や真菌が原因の共通感染症に罹らないための予防法は、結論から申し上げれば必要以上の愛犬との接触は避けることです。
しかしながら、近年では犬の飼養は室内飼育が主流となり、一緒のベッドや布団で毎晩寝ているという飼い主さんも多いでしょうし、中には俗に言う犬の体に顔を押し当てて犬を吸う『犬吸い』をする飼い主さんもいるかと思います。
ですが、そういった行為は時として共通感染症を患ってしまう原因になるため、愛犬を触った後は手洗いやうがいを徹底したり、愛犬と一緒に生活する環境を常に清潔にしたりすることを心掛けてあげてください。
細菌性の感染症では多くの場合、抗生物質の投与によって増殖抑制、排除が可能ですが、真菌性の感染症では何よりも衛生管理を徹底することが大切です。
まとめ
いかがでしたか?
愛犬と飼い主さんともに罹ってしまう細菌と真菌の共通感染症には、他にも多くの感染症が存在しますが、どちらにせよ、日々の暮らしの中でいつ感染しても不思議ではないため、常日頃からの愛犬のお手入れなどを行うことで、感染予防に努めるように心掛けたいものですね。
<参考書籍>
THE DOG CARE ザ・ドッグケア
<参考サイト>
今さら聞けない 「ウイルスと細菌と真菌の違い」
>https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/ketsuekigakuwomanabou-252.pdf
日常生活に潜む破傷風
>https://www.jbpo.or.jp/tetanus/symptom.html
ビジュアルガイド 犬の病気とその看護
>https://www.sagamigaoka-ac.com/wp-content/dr_file/pdf/training_120216_01.pdf
また、生前疾患の多かったシェットランド・シープドッグをキッカケに取得した愛玩動物飼養管理士などの様々な資格の知識を生かし、皆様に役立つような記事を提供、執筆出来ればと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
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