「一番大好きなのはお母さんで二番目はお父さん」というように、「犬は家族を順位付けしている」とよく聞きます。
実際に自分の言うことをなかなか聞いてくれないと、「自分のことを下に見ているのでは」と苛立ったり悲しくなったりしてしまいますね。
でも本当に犬は「家族を順位付け」しているのでしょうか?
今回は、「犬の順位付けの考え方」や「どうしたら犬と信頼関係を築けるのか」について解説していくので、ぜひ最後までご覧ください。
犬は「家族を順位付けする」ってホント?
結論から言いますと、「犬が家族を順位付けする」「人を下に見ているから言う事を聞かない」と言うのは迷信的な考え方で、決して犬は家族を順位付けしたりしません。
犬が人によって行動を変えるのは、その人の行動や接し方に犬が影響を受けているだけに過ぎません。
そのため、自分の言う事を聞かないのは「自分の方が立場が上だと思っているからだ」と思いこんで横暴に接していると、ますます犬からの信頼を失ってしまいます。そのようなことにならないためにも、まずは正しい情報や接し方を覚えていきましょう。
家族内で犬が言う事を聞く、聞かないはなぜ起こる?
犬は家族を順位付けしないとしたら、どうして相手によって犬が行動を変えるのでしょうか。
先ほど犬が人によって行動を変えるのは、その人の行動や接し方に犬が影響を受けているとお話ししましたね。
犬は学習する生き物なので、「自分にとって嬉しいことや楽しいことをしてくれた事」「自分が怖いと感じていることから守ってくれた事」をちゃんと覚えています。そして、そういうことをたくさんしてくれる人のことを大好きになります。
犬が「この人のこと大好きだなぁ」と感じると、犬の中でその人に対する期待感が高まったり、許容範囲が広がります。
つまり、相手によって態度を変えていると感じる行動は、犬が過去に経験したことを元に期待感が大きい人を選んだり、人によって許容できる範囲が違うだけなのです。
たまにしか会わないドッグトレーナーの言う事は聞く(たくさん褒めてくれたりご褒美をくれるから)、お母さんの言う事は聞くけど子供の言う事は聞かない(お母さんはいつもご飯や散歩をしてくれるから)と言うのはよく耳にする話ですが、こうしてみると理由がなんとなくわかるのではないでしょうか。
なぜ、「犬が順位付けをする」という考え方ができたのか?
ではなぜ、「犬が人のことを順位付けする」という考え方ができたのでしょうか。
この考え方は、オオカミの行動研究を犬に当てはめて考えたことに由来します。
オオカミの群れでは階層構造があり、階層の順位が高ければ高いほど食事やより良い寝床の優先権を持つことが観察されたそうです。そのため、祖先が同じ犬も同じように階層構造をもっており、家族に対しても順位付けをすると考えられてきました。
このことから「人が犬の上位にならなくてはいけない」という考えが広まり、犬のしつけにも取り入れられてきました。
しかし、このオオカミの行動研究は「動物園内」で行われたもので、野生のオオカミの群れを観察した研究では絶対的な序列関係はなく、お互いに助け合ったり嫌なことをされれば下のランクのオオカミが上のランクのオオカミに怒るといったことも観察されたそうです(ちなみに野犬の群れの観察でも明確な階層構造は見られなかったそうです)。
このことから現在は、「犬は人を順位付けする」といった考え方は迷信であると捉えられています。
犬と信頼関係を築くには?
「犬は家族を順位付けしている」という事を気にされる方は、愛犬との関係作りに悩んでいたり、「どうして自分の言う事は聞かないのだろう」と不満に感じてお調べになっている方が多いと思います。
そこで最後に、「犬と信頼関係を築いていくにはどうすればいいのか」も合わせてお話ししていきたいと思います。
犬と信頼関係を築いていくのに大切なポイントは「4つ」あります。
▼犬と信頼関係を築くために大事なこと
①愛犬が嫌いなこと、苦手なことを知る
➁お世話だけでは犬は懐かない
➂苦手なことは慣れる練習が必要
④犬を擬人化しない
①愛犬が嫌いなこと、苦手なことを知る
愛犬が嫌いなことや苦手なことを把握せずにやっていると、「この人は嫌なことをする」と認識されて、避けられるようになってしまいます。
例えば、「犬の手の中や口の中にある物を取ろうとする」「いつまでも犬を撫でようとする」「犬が苦手な場所を慣らさずに触ろうとする」など、犬は嫌がっているのに飼い主さんが気が付かずに行っていることは多くあります。
➁お世話だけでは犬は懐かない
一生懸命にお世話をしているのに懐かない、言う事も聞かないと感じる方もいるでしょう。
先程、「この人の事が大好き」と感じるのは「自分にとって嬉しいこと」をしてくれる人とお話ししました。
犬によって嬉しいことは変わりますが、「ご飯」や「おやつ」や「散歩」や「遊び」であることが多いです。
でもお世話の中には、「爪切り」や「歯みがき」など犬が苦手に感じることも含まれていますし、犬のトイレの掃除やオモチャを洗うなどの犬に直接関わらないこともあります。
犬が苦手に感じる事ばかりしていたり、犬の生活を快適にするけれど犬に関わらないお世話ばかりしていると「犬にとっての嬉しいこと」ではないので、関係を深めることは難しくなります。
➂苦手なことは慣れる練習が必要
犬の管理の中には犬が苦手だけれど、やらないといけないことが多くありますね。例えば、「シャンプー」や「歯みがき」や「ブラッシング」が該当します。
犬に必要だからと無理やり行っていると、警戒されるようになってしまいます。
愛犬が苦手だと認識したら、少しずつ慣れさせる練習をしましょう。
ブラッシングが苦手だとしたら「ブラシに慣れる」「ブラシを掴む動作に慣れる」「ブラシを持ち上げる動作に慣れる」のように、作業を細かく分解して少しずつ慣れてもらうと犬に負担も少ないですし、慣れさせる過程で犬と協力関係もできます。
④犬を擬人化しない
犬には犬の習性があり、人とは全く違う生き物です。そのため、人と同じ感覚で接してしまうと、犬との関係が悪くなってしまうことがあります。
例えば、「1時間前のイタズラを今見つけたので叱った」「自分だけご飯の前に待てをさせている」「雷を怖がっていたのでぎゅっと抱きしめた」などがあげられます。
「ダメなの?」と思う方もいるかもしれませんが、犬にしてほしくないことを学習させるには行動を起こした直後でないと効果がありませんし、犬はケースバイケースという考えはできません。
また、人は抱きしめられると落ち着きますが、犬は体を拘束される体勢を好みません。このように人ベースで犬と接していると、犬が混乱して懐かないことがあります。
犬は家族との関係に上下はつけませんし、飼い主さんを下に見ているから言う事を聞かないといったこともありません。
犬が言う事を聞かないというときは、行動の原因はなんだろうと犬との関係を見つめ直してみてくださいね。
<参考書籍>
・動物の精神科医”が教える 犬の咬みグセ解決塾
・犬はあなたをこう見ている: 最新の動物行動学でわかる犬の心理
・ドッグ・トレーナーに必要な「複数の犬を同時に扱う」テクニック
・動物看護のための動物行動学
<画像元>
Unsplash
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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