子犬を飼っていると「飼い始めの子犬はケージから出さずに無視」「小型犬は散歩はいらない」のようなしつけ方法を一度は耳にしたことがありませんか?
よく耳にするしつけ方法ですが「それって本当に正しいの?」と感じる、根拠のない迷信のようなしつけも多く存在します。
今回は、「よく耳にするけど、それって本当に正しいの?」というしつけを4つご紹介します。
<目次>
それって本当に正しいの?①「小型犬は散歩に行かなくていい」
A.体の大きさや犬種にかかわらず、どんな犬でも散歩は必要です。
散歩量は体の大きさや犬種ではなく、愛犬に合わせて調整してください。
子犬を飼う時に「この子は小型犬なので、散歩に行かなくていいですよ」と聞いたことはありませんか?
「体が小さい=運動量も少ない」と思われているのだと思いますが、「散歩」はただ運動の時間ではありません。
▼どうして犬に散歩が必要なの?
・犬の欲求である「運動」「探索活動」「縄張り活動」を満たすため
・気分転換
人と同じく犬にも下の図のような「欲求」があり、散歩は「5.運動」「6.探索活動」「7.縄張り活動」を満たすための行動です。
※「運動」とは「全身運動」のこと、「探索活動」とは「匂い嗅ぎ」のこと、「縄張り活動」とは「縄張りの点検(広い意味では社会活動も含む)」のことを指します。
▼イギリスの「 Natural Animal Center 」が定めた 犬の欲求階層
欲求に優先順位はありますが、全ての欲求が満たされていることが大事で、満たされない状態が続くとストレスから「吠える」「噛みつく」「暴れる」などの問題行動を起こしやすくなります。
家の中だけで過ごすと、体を大きく使った全身運動は難しいですし、新しい場所ではないので縄張りの点検や匂い嗅ぎの欲求を十分に満たすことができません。
また、人がずっと家にいると気が滅入ってしまうように、外に出て気分転換をすることも大切です。
「この子は散歩がいらないから」と家の中だけで過ごしたり、散歩の時間が犬に合っていないと、飼い主さんが知らないうちに犬がストレスを溜めてしまうことになります。
それって本当に正しいの?➁「飼い始めの子犬はケージから出さずに無視」
A.ケージに閉じ込めっぱなし、無視の方が悪影響を与えます。
休息時間をしっかり確保すればケージの外に出してもOKです。
子犬を飼い始めた時に「最初はケージから出さないでくださいね」「吠えても無視してください」と言われたことはありませんか?
これって本当に正しいのでしょうか。
家に来たばかりの「子犬の状態」を考えると、取るべき行動がみえてきます。
▼家にきたばかりの子犬の状態
①環境に慣れていなくて不安
②さまざまな刺激に順応できる「社会化期」の真っ最中
①環境に慣れていなくて不安
あなたがもし言葉が通じない知らない人に、見ず知らずの場所に連れていかれて、部屋に閉じ込められ話しかけても無視されたとしたら何を感じますか?
怖いし不安だし「この人に何を言っても無駄なんだ」と悲しくなりますね。
犬と人生を歩んでいくうえで、最も欠かせないのは「信頼関係」です。もしこんな対応をされたとしたら、あなたはその人を心から信頼することはできるでしょうか?
子犬にとって「新しい環境で生きる」というのは、天地がひっくり変えるくらい衝撃的なことです。だからこそ最初に大事なのは、「この環境は安全だ」「この人は安全だ」と安心してもらう事です。
1頭で過ごす練習もケージで過ごす練習も、環境に慣れずに行うとトラウマになることもあります。
閉じ込めるよりも自由に歩き回らせて、家の環境に慣らすことを優先してあげてください(イタズラや誤飲事故の対策は必須)。
②さまざまな刺激に順応できる「社会化期」の真っ最中
もう一つ、閉じ込めることへの懸念があります。「子犬が社会化期の真っ最中にいる」という事です。
子犬には刺激や環境に順応しやすい「社会化期」という時期があります。
この時期にどんな経験や体験をしたかで、今後のストレス耐性や性格が変わってきますし、人との信頼関係のベースを築くことができる大事な時期なのです。
しかし下の図を見るとわかるように、この社会化期は「生後3週齢~12週齢」と短く、飼い主さんが共に過ごせるのはたった1カ月程(4週齢)しかありません。
▼子犬の社会化期
この貴重な1か月のうち、数日をケージに閉じ込めて無視をしたとして、子犬は何が学べるでしょうか。
社会化期を過ぎると、次は「警戒心や恐怖を感じやすい時期」に入ります。
ケージに閉じ込めて無視するよりも、たくさんの人や物と触れあわせて、っさまざまな経験をさせて、人と良い関係を築いていけるベースを作ってあげてください。
<ここは注意!>
子犬の睡眠時間は約18時間程と言われています。
かわいいからとむやみに抱っこしたり触ったりすると、ゆっくり休めないので休息の時間はしっかり確保してあげましょう。
それって本当に正しいの?➂「子犬にしつけをするのはかわいそう」
A.人間社会の中で犬が一緒に生きるには、「ここまではOK」「ここからはダメ」という枠組み(ルール決め)が必要です。その枠組みを決めないと、犬も飼い主さんも生きづらくなります。
「犬の自由にさせるのが犬の幸せ」「犬にしつけをするのはかわいそう」という考えも耳にしますね。
しつけを一切せず、愛犬のやりたいように自由にさせていたら、一体どんな犬に育つでしょうか。
▼もし犬に「しつけ」をしなかったら
・リードをグイグイ引っ張る
・他の犬や人に吠えかかる
・好きな場所で排泄する
・テーブルの食べ物を盗む
・人や犬に飛びつく、噛みつく
・家の物を壊す
・叱ろうとすると吠えかかる
ざっと並べただけで「この犬と一緒に生活するのは大変そう」と感じますね。
しつけをしないと、犬が自分で判断をして自分の作ったルールの中で生きるようになります。
そうなると、飼い主さんだけの問題ではなく、他の人まで巻き込むようになります。
そのため犬が人間の社会で生きていくには、「ここまではOK」「でもここからはダメ」というルールを覚えてもらう必要があります。
実は、「なにもかも自分で判断しないといけない」「どうふるまえばいいかわからない」という状態も犬にとってはストレスになります。
「しつけ=なにかの無理強い」ではなく、人の社会の中でどうふるまえばいいのかを教えるのも大事なしつけです。
それって本当に正しいの?④「しつけや社会化訓練は子犬の時だけでOK」
A.子犬のときだけ頑張るのはNGです。
犬のしつけや社会化訓練は犬の生涯を通して行う必要があります。
「しつけ」や「社会化の訓練」は子犬のときに頑張れば十分だと思っていませんか?
近年、研究によって犬にも人と同じような「思春期」があることがわかってきました。
月齢6~9カ月ごろになると「飼い主さんのいう事を急に聞かなくなる」「急に怖がりになる」「攻撃的になる」といった行動が見られるようになります。
子犬のときにしつけや社会化を頑張ったからと、思春期に入った犬に子犬の時と同じように接したりしつけを止めてしまうと、今後の生活でうまく対応できなくなることがあります。
犬のしつけや社会化は一時的な物ではなく、一生涯行うことが大切ですね。
いかがでしたか?
よく耳にするしつけ方法もありますが、その中には「なぜ?」と思うような根拠のない物や子犬に悪影響を与えかねないことも混じっています。
子犬のしつけや社会化はとても大切なので、不安なときはドッグトレーナーや動物行動に詳しい獣医師に相談するようにしましょう。
<参考URL>
Teenage dogs? Evidence for adolescent-phase conflict behaviour and an association between attachment to humans and pubertal timing in the domestic dog
>https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2020.0097
<参考書籍>
ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック (著),ヴィベケ・リーセ 藤田 りか子
ドッグ・トレーナーに必要な「子犬レッスン」テクニック (著),ヴィベケ・リーセ 藤田 りか子
愛犬との絆を深める散歩でマスターする犬のしつけ術 著者:田中雅織
<画像元>
Unsplash
Photo AC
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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