多くの獣医師さんが関節の病気で最も多いと名前をあげるのが、「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)通称:パテラ」という骨が脱臼する病気です。
愛犬が「パテラ」と診断されたら、気になるのは「どのように治療していくか」「手術をした方がいいのか」という事ですね。
飼い主さんが今後の治療を検討していくのに必要な情報をまとめましたので、よかったら参考にしてみてください。
<目次>
犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)ってどんな病気?
パテラの治療や手術のことをよく理解するために、最初にパテラがどんな病気なのかを知っておきましょう。
まず、犬のひざ(膝蓋骨)と聞いて「この場所だ」と明確にイメージできるでしょうか?
犬のひざ(膝蓋骨)は赤丸で囲まれた場所になります。
▼犬のひざの位置(丸い円形の骨が膝蓋骨)
このひざの部分を詳しく見ていくと、下の画像のように構成されています。
膝蓋骨の下には滑車溝(画像の左側)という部分があり、膝蓋骨が滑車溝にしっかり収まって、滑ることによってひざを曲げ伸ばしすることができます。
パテラはこの膝蓋骨が滑車溝から外れてしまう病気です。
脱臼をするとひざの曲げ伸ばしができなくなるので、下記のような症状が現れます。
パテラ(膝蓋骨脱臼)の症状
・突然「キャン」と鳴いて足を気にする
・スキップ歩き、ケンケン歩きをする
・突然、足を伸ばし始める(脱臼を自分で治している)
・足先が内側に向いて、ガニ股で歩く
・腰を落として歩く
・ジャンプや段差をためらうようになった
散歩や歩き始めのときに「なんだか歩き方が変かも」と気づくことが多いです。
パテラは初期症状が気づきにくいため、進行してから発見することが多い病気です。
早期発見をすることが何よりも大事なので、歩き方に違和感を感じたら、すぐに動物病院に行きましょう。
犬のパテラ(膝蓋骨脱臼)の4つのグレード
パテラがどんな病気なのか、なんとなくイメージできたでしょうか。
では、次に「グレード」のお話しをしていきます。
膝蓋骨の外れやすさを数字であらわした指標が「グレード」になります。
1~4段階まであり、数字が大きいほど進行し症状が重いと判断されます。
パテラの「グレード1」はどんな状態?
グレード1は膝蓋骨を触診すると簡単に横に外せますが、手を離すとすぐに正しい位置に戻る状態です。
ときどきスキップ走りが見られますが、すぐに収まるためこのグレードのときにパテラを発見するのは非常に難しいです。
パテラの「グレード2」はどんな状態?
グレード2はひざを曲げ伸ばしすると、簡単に膝蓋骨が外れる状態です。
外れた膝蓋骨は手で押したり足を伸ばすなど、なにかしら手を加えないと正しい位置に戻りません。
そのためこのグレードに進行すると、足を浮かせて歩いたり、急に後足を伸ばし始めるといった動作がよく見られるようになります。
飼い主さんが「なにかおかしい」と気づくのもこのグレードからです。
パテラの「グレード3」はどんな状態?
グレード3は膝蓋骨が常に外れた状態です。
手で押すと元の位置に戻りますが、またすぐに外れてしまいます。
このグレードになるとひざが曲げられず、体のバランスが取りにくくなるので、ケンケン歩きをしたり腰をかがめたまま歩くといった動作が見られます。
脱臼したままの状態が長くなるため、関節まわりの組織がこすれてひざに大きなダメージを与えます。
パテラの「グレード4」はどんな状態?
グレード4は一番状態が悪いグレードです。
膝蓋骨は常に外れたままで、手で押しても元の位置には戻りません。
脱臼した足は使えないので、3本足でうずくまるような姿勢で動くようになります。
このグレードを長く放置すると、ひざに大きなダメージを与えるだけでなく、重度の骨の変形が起こり修復するのが非常に困難になります。
このグレードの判断は、触診やレントゲンなどさまざまな検査を総合して獣医師さんが判断するので、人によって多少グレードが変わることもあります。
またグレードが高くても症状がまったく出ないというケースもあります。
手術が必要なパテラ(膝蓋骨脱臼)のグレードは?
では、手術が必要なのはどのグレードからになるでしょうか。
一般的には「グレード2」で症状が出ている場合、もしくは「グレード3」になると外科手術を視野に入れてくださいと勧められます。
グレードが高いから必ず手術というわけではなく、グレードが高くても無症状で痛みがでていないようであれば、お薬やサプリメント、体重管理で現状維持する場合もありますし、グレードが低くでも痛みが出ていたり運動量が多い若い子は将来を見据えて手術するということもあります。
このグレードだから手術をすすめるというよりも、発症した年齢や症状の進行具合、飼育環境や体重などさまざまな事を総合的に考慮して判断していることが多いので、将来のことを考えたうえで手術をするか獣医師さんと話し合いましょう。
手術を検討するときに注意するポイント!
では、いざ手術をするという場合に注意してほしいポイントが「2つ」あります。
●整形外科が強い動物病院を探す
●リハビリ指導も行っている動物病院を探す
●整形外科が強い動物病院を探す
パテラは膝蓋骨が滑車溝から外れてしまう病気とお話ししましたね。
内側に外れると内方脱臼(小型犬の多い)外側に外れるとが外方脱臼(大型犬に多い)となります。
しかし最近は、小型犬(特にトイプードルに多い)に「膝蓋骨動揺症」という内側外側どちらにも外れてしまう脱臼が多く見られると、中部小動物臨床研究会で報告がありました。
過伸展(かしんてん)と言われるひざが深くそってしまっている子が多く、膝蓋骨を不安定にする要因となっているようです。
▼過伸展はこんな状態です。ひざではなく前足になりますが、手術後に比べると手術前は関節が深くそっているのがわかります
パテラの手術はさまざまな方法がありますが、主に滑車溝を深く掘って膝蓋骨を外れにくくしたり、外れる側に器具を入れて外れにくくする方法が取られます。
しかしどちら側にも外れるとなると、従来の方法では再発をしてしまう可能性が出てきます。
パテラのグレードが高い、足がそり気味という場合は、パテラの手術実績が多かったり整形外科に強い動物病院で診察を受けることをオススメします。
●リハビリ指導も行っている動物病院を探す
整形外科に力を入れている病院は、手術後のリバビリにも力を入れていることが多いです。
手術後、何の問題もなく歩ける子もいますが、体の重心のかけ方に左右で差が生じてしまったり、脱臼した足とそうでない足とで筋肉量の差が生じたりする子もいます。
そういった子は、筋肉を柔らかくするマッサージや筋肉をつけるためのトレーニングが必要になります。
手術を行う病院がリハビリ指導まで行っているかも見据えて探しておくと、いざという時も安心です。
パテラ(膝蓋骨脱臼)を放置するとどうなるの?
ではもし「手術をしない」という選択をすると、いったいどうなるのでしょうか。
もちろん症状が出ていなかったりグレードが軽い場合は、お薬などを使いながら現状維持という方法もあるので手術がすべてではありません。
しかし覚えて置いてほしいのが、手術が必要なのに現状維持の選択をした場合、年齢が高くなったときに歩行に異常が出て、生活の質を悪くする可能性があるという事です。
いつまでも自分の足で歩けるというのは犬にとっての自信にもなります。現状だけでなく将来のことまで考えて、選択をしてあげるようにしましょう。
また、逆に絶対に手術が必要という場合もあります。
膝蓋骨に付いている「靭帯」が切れてしまったときです。
下の図を見るとよくわかりますが、膝蓋骨が外れたままひざが動くと、靭帯が横に引っ張られて大きく負荷がかかります。
その状態が長く続くと、靭帯が切れてしまったり炎症がひどくなります。
そうすると足が完全に着けなくなるので、手術をする必要がでてきます。
手術するかしないかは飼い主さんにとって大きな決断になりますが、後悔しないように獣医師さんとしっかり話し合って選択しましょう。
突然愛犬がパテラと診断されると、この先どんな選択をしていけばいいのか非常に不安になりますね。
手術や今後の治療を迷っている方の参考になれば幸いです。
<参考書籍>
小動物獣医看護学 小動物看護の基本と実践ガイド 上巻・下巻 西田 利穂 (翻訳), 石井 康夫 (翻訳), D.R.Lane B.Cooper
<参考URL>
小型犬の膝蓋骨脱臼 115例、手術成功に必要な手技の検討
>http://www.chubuvet.jp/excellent/pdf/2019102703_mizutani.pdf
犬の膝蓋骨脱臼 ぬのかわ犬猫病院
>https://www.nk-inuneko.com/case/r00012/
<画像元>
Unsplash
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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