犬の基本芸「お手・おかわり」。お家では上手にできるのに、いざ屋外や人前でやろうとするとうまくできなくて「あれ?」と思った経験はありませんか?
ちゃんとできるはずなのに、急に芸ができなくなるのには、実は意外な理由があるんです。
愛犬が急に芸ができなくなる「5つ」の理由
①環境が変わったから
リビングで飼い主さんと一対一ならおすわりもお手もできるけれど、部屋を変えたり、外に出ると途端にできなくなるのはよくあることです。
理由はわんちゃんがいる環境が変わってしまったからです。
<犬にとっての環境の変化(例)>
いつもはリビングなのに、今日は玄関でおすわりと言われた
いつも正面から声をかけるのに、今日は後ろから声をかけられた
いつも人差し指を立てているのに、今日は立てていなかった
上記のように人にとっては些細なことも、わんちゃんにとっては「いつもと環境が違う」という認識になってしまいます。
いつもと違う環境に混乱したり戸惑ってしまい、芸ができなくなってしまうのです。
➁屋外は集中がしにくいから
家の中と違って、外はいろいろな音や匂いにあふれています。わんちゃんにとっては非常に集中しにくく、気が散りやすい環境です。
急に吹いた風の音や他の犬の気配などに気を取られて、芸ができなくなってしまいます。
➂指示語が聞き取りづらいから
わんちゃんはとっても耳が良いのですが、人ほど言葉の聞き分けが得意ではありません。母音(a、i、u、e、o)は聞き取れますが、子音(a、i、u、e、o以外)の聞き取りは苦手です。
そのため「お手(ote)」「持て(mote)」「待て(mate)」「ダメ(dame)」などのように、同じ母音で構成される言葉はわんちゃんには聞き取りにくく、聞き間違いをして芸ができない可能性があります。
④動作や状況で覚えているから
飼い主さんは「お手」や「おすわり」という言葉で覚えていると思っていても、実は飼い主さんの動作やその時の状況で、やることを判断しているという事は多いです。
<動作や状況で芸を覚えている例>
飼い主さんが器を持って近づいたら、おすわりをする
飼い主さんが手を前に出したら、自分の手を乗せる
飼い主さんがケージを指さしたら、ケージの中に入る
そのため飼い主さんが動作をやらなかったり状況が変わると、わんちゃんは何をすればいいのかわからず混乱して、芸ができなくなってしまいます。
➄指示語を別の意味にとらえているから
人とわんちゃんの言葉は共通ではありません。そのため言葉に意味をつけて覚えさせないと「ただの音」になってしまいますし、飼い主さんの行動が伴っていないと、別の意味で覚えてしまいます。
<指示語を別の意味で覚えている例>
「終わり」と言った後にもう一度遊ぶ→「終わり」はもう一度遊ぶ言葉
「おいで」と言われたから行ったら叱られた→「おいで」は嫌なことをする言葉
飼い主さんが出した指示の通りにわんちゃんが行動してくれるかは、わんちゃんが言葉をどう捉えているかも大きなポイントになります。
愛犬が指示に従わないからと繰り返したり大声を出すのはNG
わんちゃんが指示に従わないと、つい何度も繰り返したり大声を出してしまいますね。
でも実はこれは、NGな対応です。
「繰り返し指示を出す」「声をどんどん大きくする」という事を繰り返していると、何度も言われるまでは指示に従わなくても良い、声が小さいうちは指示に従わなくて良い、とわんちゃんが学習してしまいます。
そして、いつの間にか指示の言葉がわんちゃんのBGMになってしまいます。
わんちゃんが指示に従わないときは、指示を繰り返したり声を大きくするのをグッとこらえて、わんちゃんが指示に従いやすい状況を作ってあげましょう。
大切なポイントは「3つ」あります。
犬が芸を教えるときに大切な「3つ」のポイント
①指示を出すときは犬を集中させよう!
「興奮している」「気が散っている」場合に指示を出しても、集中していないので指示が通りにくくなります。
まず、指示を出すときにはわんちゃんの意識を飼い主さんの方に集中させましょう。
犬の意識を飼い主さんに向ける方法
・犬の正面に立つ
・名前を呼ぶ
・オヤツを与える
・犬の側で指をならす
わんちゃんの意識を飼い主さんの方に向けるだけでも、芸の成功率はグッと高くなります。
➁いろいろな環境で芸ができるようになろう!
わんちゃんが「いつもと環境が違う」と思ってしまうと、混乱してできることもできなくなってしまいます。
いろいろな環境で芸をさせて「どんな状況でもやることは同じだよ」と教えてあげましょう。
ここで大切なのが、急にハードルを高くしないことです。
まずは「リビングでわんちゃんの正面に立って指示を出す」「上手にできたら次は横に立って指示を出す」「次は座って指示を出す」など少しずつ環境を変えて、成功体験を積ませてあげましょう。
急にハードルを上げて失敗体験を増やしてしまうと、わんちゃんがやる気や自信を無くしてしまいます。
そのため屋外で芸をさせるのは、家の中でどの条件でも完璧にできるようになってからです。
外に出てもまずは「玄関の外で指示を出す」「上手にできたら次は駐車場」「次は家の前の道路」など少しずつハードルを上げていきましょう。
➂指示語は意味をしっかり持たせよう!
「お手」や「おすわり」という指示語を覚えてもらうには、音以外の情報を無くす必要があります。
一番スムーズな覚え方が下記の方法です。
<おすわりの場合>
1. オヤツを使ってまず「動作(地面にお尻をつける)」を覚えさせる
2.「動作」を覚えたら「動作」を取る瞬間に「指示語(おすわり)」だけを発する
3.「指示語(おすわり)」で「動作(地面にお尻をつける)」ができたら、ハンドサイン(例:人差し指を立てる)を追加する
先に動作を覚えてもらい、後で指示語を発することで「動作」と「指示語」の意味が結びつきやすくなります。
またわんちゃんは言葉の聞き取りが苦手なので、指示語を覚えた後にハンドサインもつけてあげると、間違えることが少なくなります。
急に芸ができなくなった理由がわかれば、愛犬とどんな風にトレーニングをすれば良いかが見えてきますね。
愛犬はわかっているはずと思い込まずに、聞き取りやすい指示語を使う、集中しやすい環境を作ってあげるだけでも、芸の成功率は変わります。
屋外だとうまく指示が伝わらないとお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてくださいね!
<参考文献>
・散歩でマスターする犬のしつけ術 愛犬とより強い絆を築くために 田中雅織 (著)
・ドッグ・トレーナーに必要な 「犬に信頼される」テクニック 著者: ヴィベケ・S・リーセ / 著者・写真: 藤田 りか子
・犬の科学―ほんとうの性格・行動・歴史を知る スティーブン ブディアンスキー (著)
・Dogs perceive and spontaneously normalize formant-related speaker and vowel differences in human speech sounds
・ヒトに対するイヌの共感性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/58/3/58_324/_pdf
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
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