愛犬が嬉しそうにしていると飼い主さんの心も和むもの。
では逆に、飼い主さんのネガティブな感情が愛犬に伝わるとしたらどうでしょう。
わんちゃんの大事な「心の健康」について、動物看護師が解説します。
<この記事を読んでわかること>
■どうして人の感情が犬に伝わるの?
■ストレスが伝わるとどうなる?
■愛犬と過ごすときに大事なこと
飼い主さんのストレスは愛犬にも伝わるの?
スウェーデンの研究者たちが調べた「興味深い調査」を紹介します。
研究者たちは、犬58頭とその飼い主を集めて、飼い主のストレスが愛犬のストレスレベルと関係があるかを1年通して調べました。
その結果、下記のことがわかりました。
■人のストレスホルモンが高いと愛犬のストレスホルモンも高くなった。
■特に、女の子のわんちゃんは影響を受けやすかった。
■「飼い主さん→わんちゃん」への影響は確認されたが「逆」は確認できなかった。
ストレスホルモンの一種である「コルチゾール」は不安や恐怖を感じると分泌されます。
飼い主さんがストレスをためていると、わんちゃんも影響を受ける傾向にある、特に女の子のわんちゃんは感情に敏感だということを示しています。
私たちは不安を感じたり、ストレスがたまると「落ち着きがなくなる」「手をせわしなく動かす」などのしぐさを無意識にしてしまいます。
わんちゃんは、そのちょっとした変化を敏感に察知して不安になってしまいます。
ストレスホルモンが高いとどうなるの?
コルチゾールはストレスだけではなく、目覚ましの働きをしたり、免疫と関わっているホルモンでもあります。そのため、コルチゾール濃度が高いと病気にかかりやすくなったり、不眠などを引き起こします。
一番深刻なのは「脳」にまで影響を与えてしまうこと。
コルチゾール濃度が高い状態が続くと、脳を傷つけて、記憶を貯めておく「海馬(かいば)」が縮んでしまいます。海馬が縮むと、新しいことを覚える楽しみも、覚えたことを試す意欲もわんちゃんから奪ってしまいます。
ストレスが体全体に与える影響は、非常に大きいことがわかりますね。
わんちゃんはどうして人の感情がわかるの?
どうしてわんちゃんは飼い主さんのストレスを見抜くことができるのでしょうか。
それは、わんちゃんと人の歴史に理由があります。わんちゃんの祖先は、人の祖先の生活圏で暮らし、一緒に狩りをして食べ物を分け合ってきました。
しかし、わんちゃんは人と同じ言葉は話せません。そのため、人の動きや表情を見て少しずつ人とコミュニケーションを取る能力を発達させてきました。
長い年月をかけて、人の気持ちに寄り添うという「共感性」を身につけて、人と「絆(きずな)」を結べる関係にまで進化しました。
この共感性は飼育期間が長ければ、長いほど強くなります。
私たちも、大切な人が落ち込んだ顔、イライラした行動をしていると心配になります。
わんちゃんも同じように、心配や不安になってしまうのですね。
■こちらの記事もオススメです
>愛犬と遊ぶと「絆(きずな)」が深まるって知ってた?【動物看護師が解説】
>愛犬とのは絆(きずな)は毎朝の散歩から!【動物看護師が解説】
見過ごさないで!愛犬の心の健康
愛犬の健康のために、ドッグフードや運動量を気にしている方は多いと思いますが、愛犬の心の健康まで気にしている方は少ないのではないでしょうか。
「犬の行動療法の専門家」はわんちゃんのことだけでなく、飼い主さんのこと、家庭環境やライフスタイルまで含めて聞き取りを行います。それは、飼い主さんの心の状態や家庭環境がわんちゃんの心に大きく影響するからです。
わんちゃんにとって、日常の大部分を占めるのが飼い主さんとの時間。愛犬が健やかに暮らすためには飼い主さんの心の状態も大切なのです。
愛犬のためにできること
愛犬にストレスが移っていたらどうしようと不安になった方もいるかもしれません。
逆にいえば、飼い主さんの気持ちでわんちゃんの心を支えることもできます。
わんちゃんが不安や恐怖を感じているときに、飼い主さんが堂々としていると、わんちゃんも安心することができます。飼い主さんがリラックスしている、家庭が楽しい雰囲気にあふれている状態であれば、わんちゃんの情緒も安定します。
わんちゃんに癒されるだけでなく、共に支えあえる関係であれば、わんちゃんとの暮らしはもっと素敵なものになりますね。
愛犬には、飼い主さんのポジティブな感情もネガティブな感情も伝わります。わんちゃんの洞察力は本当に鋭いです。
愛犬に接するときは、飼い主さんの心も整えましょう!
<参考文献>
・Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners
https://www.nature.com/articles/s41598-019-43851-x
・Psychobiological Factors Affecting Cortisol Variability in Human-Dog Dyads
・飼い主のストレスは愛犬に伝染 最新研究で判明
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO46293970Z10C19A6000000/
・イヌはヒトに共感する能力を有している
https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2019-file/release190719.pdf
・ヒトに対するイヌの共感性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/58/3/58_324/_pdf
・心拍変動解析を用いたイヌ-ヒト間の不快情動伝染に関する研究
diss_dv_kou0148_sum.pdf
・第129回日本医学会シンポジウム うつ病の脳科学的研究:最近の話題
http://jams.med.or.jp/symposium/full/129006.pdf
・ヒトとイヌ、共生の歴史が生んだ心の繋がり
https://yumenavi.info/lecture_sp.aspx?GNKCD=g007801&OraSeq=62&ProId=WNA002_Sp&SerKbn=j&SearchMod=6&Page=2&KeyWord=%e7%8a%ac
・海馬とは?
http://midori-satohp.or.jp/article/50.html
・イヌの動物行動学: 行動、進化、認知
アダム ミクロシ (著), ´Ad´am Mikl´osi (原著), 藪田 慎司 (翻訳), 森 貴久 (翻訳), 川島 美生 (翻訳), 中田 みどり (翻訳)
・愛犬との絆を深める散歩でマスターする犬のしつけ術 著者:田中雅織
・ドッグ・トレーナーに必要な「犬に信頼される」テクニック
著者: ヴィベケ・S・リーセ / 著者・写真: 藤田 りか子
・動物看護のための動物行動学
著者/森裕司 武内ゆかり 監修/日本小動物獣医師会 動物看護師委員会
・犬の科学 ほんとうの性格・行動・歴史を知る
スティーブン ブディアンスキー (著), Stephen Budiansky (原著), 渡植 貞一郎 (翻訳)
<画像元>
無料写真素材 写真AC
かわいいフリー素材集イラストや
Pixabay
・(元)認定動物看護師
・一般社団法人日本小動物獣医師会 動物診療助手
やんちゃなミックス犬とおっとりトイプードルと暮らす。
大学在学中に「病気になる前の予防が一番大事」と気づき、
ペットフードやペットサプリメントの会社に就職。
「食」に関するさまざまな知識を身につける。
愛犬を亡くしたときに
「もっと色んな情報を知っておけば」と感じた後悔を
「他の飼い主さんにはさせたくない」との思いから、
ライター活動を開始。
「勉強になった・信頼・わかりやすい」を目標に情報を発信しています。
最新記事 by 伊藤さん (全て見る)
- 「愛犬と食べたい秋・冬が旬の果物」与えてOKな果物とNGな果物知ってる? - 2024年11月12日
- 「長生きする犬の共通点は?」長生きさせるための飼育環境や年齢別の注意点を解説 - 2024年11月4日
- 「犬の歯が欠けやすいオヤツ・オモチャ5選」選ぶときのポイントや歯が欠けたときの対応も解説 - 2024年10月29日
- 「犬の睡眠が足りないとどうなる?」犬の睡眠不足がまねく病気や睡眠不足のサインを解説 - 2024年10月22日
- 「習慣化で病気をまねくおそれも」犬の皮膚や毛、耳によくないNG習慣 - 2024年10月18日